経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

転生パラダイス 第3話(完結)

whatsmoney.hateblo.jp

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お店様は神様です

「美味しかったです。ごちそうさまでした」

サンタ爺と僕は、カウンターの向こうに居るご主人にもお礼を言って食堂を出た。

(タダで食べさせてもらって、お礼を言わずに店を出るわけにいかないよなぁ……)

改めてモールの中を見渡すと、本当に色々な店がひしめき合っている。

「ここにある商品、全部タダなんですよね」

「ん?まぁ、そういうことだ」

「ムチャなことを言う人は居ないんですか?この店にある商品を全部くれ、とか」

「そんなことをして、何の意味があるのかね」

「いや、意味は無いのかも知れませんが……。もしそういう人がいたら困りませんか」

「何も困らんよ。断ればいいだけだ」

「あっ……」

断ることが出来るのか。

僕のいた世界では、客の言うことには出来るだけ従うのが普通だった。

それはお金を受け取る側の立場が弱いからだ。

お金の無いこの世界では、店と客との立場は対等……。

いや、むしろ店の方が立場が強いじゃないか。

「そうか、断れるんだ。ムチャを言う客には商品を渡さなければいいんですね」

「もちろんだ。酒を提供する店でも、飲み過ぎだと判断すればそれ以上酒は出さない」

「なるほど……」

俺は金を払ってる客だぞ、四の五の言わずに酒を出せ!なんてことは言えないわけか。

「仮にですが、僕がさっきの店のご主人……斉藤さんを怒らせるようなことをしたら……」

「次に行った時には食べさせてくれないかも知れんな」

「ですよね」

(ちゃんとお礼を言っておいて良かった……)

「ひょっとすると、この国にはクレーマーみたいな人は居ないのでは?」

「クレーマーとは何だね」

「あっ、えーと……。店に対して何かと難癖をつけて、自分の利益を計ろうとする人のことです」

「ふぉっふぉっふぉ、そんなことをして得をすることなど何一つありゃせん」

「そうですよね。損しか無いですよね」

そうだとすると、何か商品をもらったりサービスを受けたりしたら、必ず感謝の気持ちを伝えることになる。

実際、僕も今日そうしていた。

この国ではクレーマーは自然に淘汰されて、いつも感謝の言葉であふれているわけか。

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(やはり天国なのでは……。本当はもう死んでるのか?)

この国では、「ありがとう」という言葉さえ舌に教えておけば、何不自由なく、何の不安もなく生きていくことが出来るだろう。

そして自然に、自分も人の役に立つことをしたい、感謝の言葉を受け取りたいと考えるようになるに違いない。

なんと素晴らしい世界だろうか。

 

致命的な欠点

僕たちは公園に戻り、ベンチに腰掛けた。

しかし、やはり腑に落ちない。

そんなにメリットばかりならば、僕が居た世界だってお金の無い国ばかりになっていたはずだ。

そうなっていない以上、お金が無いことには何か大きなデメリットがあるんじゃないだろうか。

「あのー」

「なんだね」

「お金が無い社会には、何かデメリットがあるのではないですか?」

「デメリット……欠点のことだね。もちろんある」

「何ですか?」

「これは美点でもあり欠点でもあるのだが……、この国の人々は頑張りすぎない。ほどほどにしか働かない」

「やりたい仕事を、やりたいからやってるんですもんね。休みたければ休めばいいし、やめたければやめればいい。良いことだと思いますが」

「お金のある国ではそうではない。何かに追い立てられるように、懸命に働く。仕事を掛け持ちせざるを得ず、ろくに寝られない者も居る。休もうとする者は非難される」

「分かります」

僕のいた会社がまさにそうだった。

定時に帰るなどもってのほか、休日出勤を断ろうとしただけで上司に散々詰められた。

「懸命に働くだけではない。仕事の効率を上げることにも、新しい技術や事業、産業を生み出すことにも懸命に努力する。いや、努力させられる」

「はあ……。やらせておけばいいのでは?この国とは関係ないことじゃないですか」

「そうはいかんのだ。お金のある国はどんどん効率化し、発展し、強い国になる。この国は発展のスピードが遅く、相対的に弱い国になってしまう」

「……」

「強い国と弱い国があればどうなるか、分かるね?」

「……強い国に侵略されて、飲み込まれてしまう……と?」

「まぁ、あからさまな軍事侵略は無いかも知れん。しかし、軍事力を背景にして経済的に侵略されることは十分に考えられる」

「どうなっちゃうんです?」

「所有とお金のある国に戻せ、と圧力をかけてくるだろう。弱ければ逆らえん。そして、この国のあらゆる権益が奪われていく」

「それじゃ意味ないじゃないですか。どうやって対抗するんですか?」

「手段の一つは、核兵器を持つことだ。核を持っている国にはそう簡単に手出しできんからな」

「この国には核兵器があるんですか?」

「もちろんだ。しかし、それは時間稼ぎに過ぎん。根本的な解決にはならんのだ」

「じゃあどうすれば……」

「諸外国の世論を動かして、お金の無い国に変えていくしかない。お金の無い社会というイデオロギーによって世界を塗り替えるのだ」

「……そんなことが可能でしょうか」

「もう後戻りはできん。やるしかないのだ。それが出来なければ……、この国はいずれ滅びる」

なんてことだ。

この国が天国のように素晴らしい世界であることは間違いない。

人々は将来に何の不安も持たずに、自由に伸び伸びと生きることが出来る。

一人一人が、本当にやりたいことをやれるのだ。

しかしそれもこれも、他国からの干渉や侵略が無ければの話だ。

世界中をお金の無い国にするなんてことが果たして可能だろうか?

この国の中にはギャンブルが無い。

それもこの国の美点の一つだと思っていた。

しかし国全体では、命がけのギャンブルに挑んでいたのだ。

……このギャンブルを成功させるために、何か僕に出来ることはあるだろうか。

 

(完)