経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

転生したらお金の無いパラダイスみたいな国だった件

裸の自分

「お前のような無価値な人間は死んだ方がいいな。死んでくれよ」

度重なる上司のパワハラにギリギリ耐えていた僕は、この言葉で完全に心を殺されてしまった。

電車に飛び込んだのは三日後だったと思う。

目が覚めると、僕は小さな公園の砂場に裸で横になっていた。

(夢か……?)

体を起こして見回すと、木々や芝生の鮮やかな緑が目に入った。

こんなにくっきりした夢は見たことが無い。

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(体が軽い……。裸だからかな?)

そんな理由じゃないだろうが、身も心も軽くなっていることは確かだった。

誰も居ないのかと思ったが、公園の隅に草刈りをしている人がいるのに気がついた。

(このまま裸でいるわけにもいかないし、とりあえずあの人に話しかけてみよう)

僕は赤いジャージを着たその人に近付くと、手で前を隠しながら声をかけた。

「あの、すみません」

振り返って僕を見上げたのは、眉毛やあご髭まで白髪の、まるでサンタのようなお爺さんだった。

(元気なお爺さんだな……)

「どうしたんだね、そんな格好で」

「気づいたら裸でここに……。何も覚えてないんです」

「何もって、名前もかね。それは大変だ」

電車に飛び込む前のことは覚えていたが、それを言っても混乱するだけだろう。

「ふむ……。この近所で何か着るものを分けてもらおう。……その前に、砂を落とした方がいいな」

背中についた砂を、軍手で払ってくれた。

 

シャワーを浴びる

サンタ爺は公園のそばにある白い大きな建物に向かい、僕もそれに続いた。

3階建てで横に広く、アパートやマンションというよりは綺麗な老人ホームといった風情だ。

入口でサンタ爺が呼び鈴を押すと、管理人さんらしき品の良さそうなおばさんが出てきた。

「はいはい」

「こんにちは。実はですな、この青年に着るものを分けてあげてほしいのですが……」

「あらあら、まあまあ」

事情を説明すると、管理人さんは僕を中に入れてくれた。

「では、私は草むしりに戻るよ。しばらくは居るから、服を着たらまた来るといい」

「あっ、はい。ありがとうございます」

サンタ爺は公園に戻っていった。

「この雑巾で足を拭いてね」

「はい」

「こっちに大浴場があるから、シャワーを浴びてらっしゃい。お風呂は今の時間、沸いてないの」

管理人さんは新品の下着を渡してくれた。

(こんな見知らぬ裸人に新品を下ろしてくれるのか?)

しかも、どう見ても安物ではない。

後で料金を請求されるんじゃないかと、少し不安になった。

「あっ、あの……。僕、お金を全く持ってないんですけど……」

「お金?あなた、お金のある国から来たの?」

「えっ……。分かりません」

「記憶が無いんだったわね。お金のことは心配いらないわ」

(どういうことだ?今の言い方だと、この国にはお金が無いみたいだけど……。そんなことあり得るのか?)

「ここが大浴場よ。タオルはここ。使ったタオルはここに入れてね。ここのバスローブを着てロビーに戻ってね」

「はい、ありがとうございます」

脱衣場には洗面台が3つ並んでいた。

(そういえばまだ自分の顔を見てなかったな。めちゃくちゃイケメンになってるかも)

期待して鏡の前に立ってみたが、せいぜい中の下ぐらいの顔立ちだった。

(でも、死ぬ前の顔とは似ても似つかないな……。お金が無い国なんてのも聞いたことがないし)

異常なことが起きているのは確かだった。

 

服を着る

シャワーを浴びてロビーに戻ると、ランドセルを背負った子供が管理人さんに挨拶しながら奥へ歩いて行った。

(老人ホームじゃないみたいだな……。と言うか、ランドセル?絶対ここ日本だろ)

「あのー」

「ああ、上がった?じゃあ、衣装部屋に行きましょうか」

管理人さんについて行きながら聞いてみた。

「ここって、日本なんですか?」

「そうだけど?」

「そ、そうですか……」

(やっぱり日本なのか……。だとすると、パラレルワールドってやつかな)

考えても仕方のないことだった。

衣装部屋は大きなクローゼットで、サイズごとに色々な服が吊されていた。

「どれでも選んでいいわよ」

「本当ですか」

服の大半は新品ではないようだったが、生地も縫製もしっかりしていて問題の無いものばかりだった。

新品もあったが、さすがにそれを選ぶのは気が引ける。

ブランドものは無さそうだった。

「どれもモノがいいですね」

「そう?まぁ、そうね。この国では、質の悪い品物を作る意味は無いのよ」

「どうしてですか?」

「質の悪い服なんて、誰にも着てもらえないじゃない」

「貧乏な人は着るんじゃないですか?」

「お金が無いから、貧乏とかお金持ちとかも無いの」

「うーん、そうなんですか」

お金が無いというのは、やっぱり意味が分からない。

僕は少し悩んで、白いシャツ、グレーのパーカー、ジーパンを選んだ。

「そこで試着できるわよ」

着てみると、サイズもちょうど良いし、着心地も良かった。

「大丈夫です」

「そう。もっと持って行ってもいいんだけど、荷物になるだけだからね。とりあえずそれだけでいいと思うわ」

「これ、もらっちゃっていいんですか?」

「持って行って構わないわよ。でも厳密に言えば、あなたの所有物になるわけじゃないの」

「あっ、やっぱり借りるだけなんですね」

「そうだけど、そうじゃないのよ」

「どういうことです?」

「この国にある物は全部、国民全体の共有物なの。ここにある服もそうよ。だから、必要になったら借りて、着なくなったら返せばいいの」

「はあ……。結局この服は、ここに持ってきて返すべきなんですよね?」

「返すのはどこでもいいのよ。服屋さんならどこでも引き取ってくれるし、クリーニング屋さんに返してもいいわ。お友達に譲ってもいいし」

「ははあ……」

「でも、共有物だからって、あなたが手元に置いている間は他の人に奪われたりしないわ。そういう意味では、その服は今、あなたのものになったの」

「なるほど……」

なんとなく分かってきた。

管理人さんの言ってることが本当なら、これほど合理的なシステムは無いだろう。

たとえば、子供の体がどんどん大きくなっても、小さくなった服を返しては丁度いい服を借りればいいだけだ。

太ったり痩せたりしても対応できる。

安物の服が作られてはすぐダメになって捨てられることも無い。

大量に作られた服が売れ残り、セールで処分され、結局タンスの肥やしになるなんてことも無い。

どこにも無駄が無いじゃないか。

しかし、分からない……。

「服屋もここと同じように、単に服を渡してくれるんですよね?」

「もちろん。お金は無いしね」

どうしてこれで経済が回るんだろう。

服屋はどうして店に服を並べるんだ?

お金が手に入るわけじゃないのに。

服を作る人だって、お金はもらえないはずだ。

どうして服を作るんだろう?

「靴はこっちにあるわ。靴下は新品よ」

「あっ、はい。……何から何まで、ありがとうございます」

管理人さんはフフッと微笑んだ。

 

<続く>

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