経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

投資――お金を投げるということ

はじめに

(この“はじめに”は読み飛ばしても問題ありません。)

今年の春、このブログで5回にわたり資本というものをスライムという怪物にたとえて説明してきました。

 

whatsmoney.hateblo.jp

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スライムのたとえでは、それを操縦するパイロットは企業の経営者に相当します。

このパイロット(経営者)のことを私は資本家(機能資本家)と言っていましたが、これは私の勘違いでした。

機能資本家とは、企業を所有し、かつ経営もする人のことを言うようです。

中小企業の社長は所有も経営もしていることが多いので、機能資本家ですね。

それに対し無機能資本家とは、企業を所有するが経営はしない人、株の配当で生活しているような人のことです。

私の意図はパイロット=企業を所有しない経営者であり、つまり資本家ではありません。

パイロットの話で機能資本家については書いた。いずれ無機能資本家について書こう」などと考えていましたが、実は資本家について全く書いていなかったことになります。

資本家というのは投資家とほぼ同義だと考えていいでしょう。

投資家が経営をしない場合は無機能資本家で、経営をする場合は機能資本家です。

資本家とは“投資”をする人のことなのです。

今回の記事では、“投資”という言葉の定義を改めて考え直すことで、資本家という存在について考察します。

 

投資とは何か

そもそも投資とは何でしょうか。

“投資”という文字から考えれば、資(お金)を投げることです。

つまり、お金を投げる(=他者に渡す)ことが投資だということになります。

しかしもちろん、お金を投げるだけで何も返ってこなければ投資になりませんから、なんらかのリターンが必要です。

お金を投げる相手は企業であることが多いですから、ひとまず以下のように定義しましょう。

<暫定定義1>
投資とは、リターンを得ることを目的として企業にお金を投げることである。

配当を得ることを目的として企業に出資すれば投資ですし、金利を得ることを目的として企業にお金を貸せば(あるいは社債を買えば)これも投資です。

単純な贈与や寄付として誰かにお金を渡すことは投資ではありません。

当たり前ですね。

 

住宅ローンの貸し付けは投資か?

さて、リターンを得る目的でお金を投げる相手としては、企業の他には何があるでしょうか。

法人にしていない個人事業主なども企業に含まれるとすれば、企業に含まれないのは事業を行わない個人、主に労働者ですね。

労働者にお金を投げる状況を考えると、たとえばサラリーマンに住宅ローンを貸すようなケースです。

これは投資に含めるべきでしょうか。

リターンである金利は労働による賃金から支払われますが、住宅ローンを借りたことによって労働が出来るようになったわけではありませんよね。

仮に無一文でも、労働して賃金を稼ぐことは可能です。*1

投げたお金とリターンの原資とが無関係なので、これは投資とは呼ばないことにしましょう。*2

つまり、投げたお金を元手として営利活動を行わせ、その利益(の一部)をリターンとして受け取るのが投資だ、ということです。

<暫定定義2>
投資とは、営利活動の元手となるお金を企業に投げることを言う。その営利活動による利益を回収することが投資の目的である。

この定義では、売買差益を狙って株を買うことは投資になりませんね。

売買差益は企業の営利活動の結果ではありませんから。

いわゆる株のトレーダーは投資家とは呼べず、株の転売屋だということになります。*3

仮想通貨を買うことも投資ではありませんし、FXにお金を突っ込むのも投資ではありません。

単なる転売行為です。*4

 

闇金への出資は投資か?

違法な闇金業者に金主としてカネを投げることは投資と考えるべきでしょうか。

闇金業者は企業とは言い難いですが、投げられたカネを元手に営利活動を行い、その利益(の一部)を金主に渡すことには変わりありません。

通常の投資と違いがあるとすればその活動の違法性だけですから、闇金への出資を投資ではないと考えるとしたら、合法か違法かで投資か否かを判断することになります。

合法か違法かは物事の本質とは関係ありませんから、営利活動が違法であっても投資だと考えることにしましょう。*5

<暫定定義3>
投資とは、営利活動の元手となるお金を営利組織に投げることを言う。その営利活動による利益を回収することが投資の目的である。なお、営利活動は違法であっても良い。

この定義では、特殊詐欺を行う組織にカネを投げて*6詐欺を実行させ、その利益を回収することも投資になります。

 

利益を渡す“約束”

次に、投資した相手である営利組織から利益を回収する方法を考えましょう。

噛み砕いて言えば、お金を投げた相手が利益をこちらに渡すことを確実にするにはどうすれば良いのか?です。

相手は利益をこちらに渡す約束になっているのだから、そんなことは考える必要が無いと思うかも知れませんね。

たしかに約束は重要です。

合法な営利活動の場合は契約、および法律を守ることになっています。

違法な営利活動の場合は契約書を作っても意味が無いので、基本的に口約束になります。

これら契約、法律、口約束などをまとめて“約束”と呼ぶことにしましょう。

利益を渡す約束に合意させた上でお金を投げるのだから、利益を渡してもらえると一応は期待できます。

しかし、約束を素直に守ってくれるとは限りません。

 

約束を守らせる“暴力”

相手が約束を破らないようにする縛りが必要です。

もっと言うと、相手が約束を破った場合に“痛い目”に遭わせることが出来るように準備しておく必要があります。

合法な営利活動に対してお金を投げている場合、相手が約束を破った時には警察、裁判所、刑務所といった国家の暴力を利用して痛い目に遭わせることが出来ますね。

しかし、違法な営利活動に投資している場合には国家の暴力(合法な暴力)を利用することが出来ません。

この場合は基本的に、自分自身や自分の手下など、自前の暴力*7によって痛い目に遭わせることになります。

要するに、合法な営利活動には合法な暴力で、違法な営利活動には違法な暴力で対応するわけです。

いずれにせよ、利益の回収には“約束”と“暴力”が必要だということですね。

実際に暴力を発動するところまで行くケースはそれほど多くありませんが、回収を確実にするためには暴力をチラつかせて脅す必要があります。

<最終定義>
投資とは、営利活動の元手となるお金を営利組織に投げることを言う。その営利活動による利益を回収することが投資の目的である。なお、営利活動は違法であっても良い。利益の回収は暴力を背景に約束を守らせることで行う。

資本家=なんもしない人

資本家とは投資をする人です。

つまり、営利組織に約束をさせた上でお金を投げ、営利活動をさせ、暴力を背景にしてその利益を回収する人です。

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資本家=なんもしない人

そして背景とする暴力としては、自分が表の世界で(基本的に法律を守って)生きている限り、国家の暴力を利用できます。

つまり資本家とは、一言で言うなら“なんもしない人”です。*8

なんもしないでお金だけ投げて、利益を回収する人が資本家です。

もちろん、機能資本家はなんもしないわけではなく経営をしますので、ここでは無機能資本家に(と言うより資本家の無機能部分に)着目しています。

資本家がやることと言えば、より良い営利組織を選ぶという目利きぐらいですが、それとてお金を払って人にやらせることも出来ます。*9

なんもしないでお金が入ってきて生活ができるとすれば、うらやましい限りですね。*10

 

資本主義のルール

私たちが生きているこの社会は、お金を投げると(投資をすると)利益を回収できるというルールになっています。

それが資本主義のルールです。

このルールを私たちは当たり前のことだと思っていますが、これは決して当たり前のことではありません。

資本主義社会ではこういうルールになっている、というだけです。*11

このルールの下では、お金を持っていない人は“なんもしない人”のために営利活動や労働をすることになります。

そして、まとまったお金を持っている人はますますお金を集めますから、構造的に貧富の格差が拡大します。

たとえばアメリカでは、上位1%の富裕層の資産が2020年の一年間で4兆ドル増加しました。

この増加分だけで、下位50%のアメリカ人が保有する資産の総額を上回るそうですから、それだけ“回収”がキツいということです。

もちろん、格差の拡大を問題視している人は多いですし、解決すべき社会問題として語られることも多いでしょう。

しかしながら、「お金を投げれば利益を回収できる」という資本主義の根本的なルールそれ自体を疑問視する人は少ないようです。

その一因は、私たちが子供の頃から「資本主義は優れたシステムだ」と教えられてきたことでしょう。

たしかに資本主義には優れた面があります。

それは、より営利活動が上手い企業が、より多くのお金を投げてもらえ、したがって社会全体で利益を最大化できる点です。

しかし、利益というものはお金を投げる側の人が回収するものです。

つまり、資本主義は“お金を投げる側の人にとって”優れたシステムなのです。

資本主義のルールが本当に私たちを幸せにしているのかどうか、良く考えてみるべきでしょう。

 

*1:住居が無ければ住み込みで働けるような仕事をしてもいいですし、生活保護を受けてから就職してもいいでしょう。

*2:もちろん、住宅ローンを貸し付けて金利を取ることは営利活動ではあります。

*3:あくまで、ここでの投資の定義においては、という話です。

*4:ただし、転売益を得ることは営利活動ではあるので、誰かにお金を投げて転売益を稼がせてその一部を回収することは投資と言えます。

*5:仮に来年から闇金が合法化されるとしたら、それまで投資でなかったものが急に投資になる、というのは変でしょう。

*6:特殊詐欺を始めるのにも結構な元手が必要です。

*7:ここで言う暴力は、殴る蹴るなどの暴力だけでなく、相手の弱みを握っておいてそこを攻撃するようなことも含みます。

*8:レンタルなんもしない人の方がよほど“何か”をしています。

*9:ファンドを買うという行為がそれに当たります。

*10:いわゆるFIREを達成するとはそういうことです。

*11:共産主義社会主義の社会では、企業や財産を私的に所有することが出来ませんから、お金を投げた人が利益を回収するということもありません。