お金に関する誤解
「お金に関して、人々は誤解をしていることが多い」
「唐突ね。どんな誤解?」
「シンプルに言えば、お金は増えるという誤解だ」
「いやいや、増えるでしょ」
「どんな時に増えると思う?」
「働いて給料をもらったら増えるし」
「マイの持ってるお金は増えるね。でも給料を払った側では同じだけお金が減ってるから、全体では増えてないでしょ」
「それはそうね。でも会社で労働者を雇って何かを生産して売ったら、給料を払っても利益が残るじゃない。お金が増えてるでしょ」
「その会社のお金は増えるね。でも経済全体では増えないよ」
「そうなの?良く分からないわ」
「後で説明しよう。他には何かある?」
「そうねぇ。お金を貸したり投資したりすれば、お金が増えていくと思うけど」
「その人のお金は増えるかもね。でも全体では増えない」
「うーん……」
「他にも、こんな誤解がある。株価が上がればお金が増える」
「それも増えるような気がするけど……」
「増えないよ」
「うーん……。良く分かんない」
「難しい気がするよね。でも、これらの誤解はたった1つのことを理解するだけで簡単に解けるんだよ」
「たった1つのこと?」
「うん。それはね、『お金は増えない』ってこと」
「……そのまんまね」
「そうだね。多くの人は『お金は増える』と誤解している。その誤解を解くために理解すべきことは『お金は増えない』。簡単でしょ?」
「そうだけど」
お金は増えない
「お金というものはね、何をどうしたって増えないんだよ」
「どういうこと?」
「マイは、自分の財布から1万円出して目の前の相手に渡したら、相手が受け取ったのは2万円だったことってある?」
「あるわけないでしょ」
「封筒に1万円入れてしまっておいて、1ヶ月後に取り出したら2万円になってたってことは?」
「それもないわ」
「ほらね。お金は増えない」
「いやいや、銀行にお金をしばらく預けておけば、利子がつくでしょ。お金が増えてるじゃない」
「それも違うよ。その利子は銀行からマイに渡されただけだ。マイの方では増えてるけど、銀行側では同じだけ減ってるでしょ」
「うーん。でも私に渡す利子は、銀行がお金を貸した企業から受け取った金利から払うわけでしょ。その金利の分は増えたんじゃない?」
「それも違う。金利の分のお金は借り手の企業から銀行に受け渡されただけだ。経済全体では増えてない」
「うーん……。でもさ、借り手の企業は何かビジネスをしてお金を増やして、その利益から金利を払ってるんでしょ。その利益の分のお金は増えたんじゃない?」
「その企業だけに着目するなら、もちろんお金は増えているね。だけど……」
「経済全体では増えてない?」
「その通り」
「そうかなぁ……」
お金は移動するだけ
「良く考えてみて。たとえば、何かを製造するA社という企業を考えよう。A社はまず、原材料を買う。代金がA社から仕入れ先に移動するけど、お金は増えないよね」
「うん」
「次に、労働者に労働してもらう。賃金がA社から労働者に移動するけど、お金は増えないよね」
「そうね」
「そして商品が出来上がり、これを顧客に渡す。代金が顧客からA社に移動するけど、この時もお金は増えないでしょ」
「……たしかに」
「この企業が儲けようが損しようが、経済全体ではお金は増減しないんだ」
「うーん、そりゃそうか」
「考えてみれば、これは当たり前のことだよね。だって、1万円を渡したら相手が2万円受け取るようなことも、封筒に入れた1万円が2万円になるようなことも、絶対に起きないんだから」
「ふーむ、お金は増減せず移動するだけか……。でもさぁ、銀行がお金を貸した時はお金が増えるんでしょ?」
「いや、増えないよ。これはちゃんと説明すると長くなってしまうので、また今度にしよう*1。とりあえず、この図を見てくれる?」
「ふむ」
「左側の発行者というのは銀行だと思って。銀行が借り手に預金通貨を貸す時、銀行側ではその分だけ預金通貨が減るんだ。残高がマイナスになる」
「残高がマイナスって意味分からないけど、この図を見たらなんとなく言いたいことは分かるわ」
「預金通貨の残高がマイナスになる、ということの意味が気になる場合は、この記事を読んでみて」
「ふーむ」
「銀行が貸した時も含めて、経済全体ではお金は一切増減しないってこと、一旦納得してくれる?」
「一旦ね」
お金は奪い合うもの
「お金というものは、人々や企業などの経済主体の間を移動することしかしない」
「そうね」
「私たちは、お金を渡したり受け取ったりする。その過程でお金が増えたり減ったりすることはない」
「うん」
「私たちはお金を生み出すことはできない。お金は渡し合うものであり、受け取り合うものだ」
「そうね」
「悪い言い方をするなら、お金は奪い合うものだ」
「うーん……」
全員がお金を増やすことは不可能
「百人の村で考えよう。今、村人は全員10万円ずつ持っているとする」
「ふむ」
「村の中だけで経済活動をするとして、一年後に村人全員が11万円ずつ持っているということはあり得るだろうか?」
「それはあり得ないわね」
「どうしてかな?」
「だって、10万円×100人で合計1000万円でしょ。一年後も全部で1000万円しか無いわよ」
「そうだよね。増やした人がいるなら、減らした人もいるはずだ。全員がお金を増やすことは不可能だ」
「うん」
「これは、百人の村人が全員ビジネスの天才だったとしてもそうだからね。お金を増やした人がいれば、お金を減らした人がいる」
「そうなるわね」
「お金を奪い合っていると言っていいでしょ?」
「……たしかに」
金利や配当を再考する
「お金というものは全体では決して増えないし、奪い合うものだ。いいね?」
「うん、まぁ」
「私たちは、お金を貸したり事業に出資したりすると、金利や配当金という形でお金をもらえると思っている」
「そうね」
「でもそれは、そのお金の分だけ誰かから奪ってるってことなんだよ」
「そうなの?」
「だって、どうやったってお金を増やすことは出来ないんだから。誰かから奪うしかないでしょ」
「配当金はビジネスで得た利益から払うんじゃないの?」
「そうだよ。ビジネスで利益を得ることが出来たとしたら、それは誰かから奪った結果なんだよ」
「うーん、ちょっと納得いかないかも」
「ここに引っかかるなら、この記事を読んでみてほしい」
「ふーむ」
「利益となるお金は、誰かが喜んで差し出したのかも知れない。あるいは、立場が弱くて不当に少ない給料でも我慢するしかなかったのかも知れない」
「どっちもあり得る話ね」
「いずれにせよ、そのお金は断じて“生み出されたもの”ではないんだ」
「そうか。移動しただけだもんね」
複利の力の裏側にあるもの
「マイは、複利の力っていう言葉を聞いたことがあるかな?」
「知ってるわ。入ってきた利息を元本に組み込んでいけば、お金が雪だるま式に増えていくってことでしょ」
「そうそう。でも、その利息として受け取ったお金は誰かから搾取したお金の一部だ。利息の裏には搾取がある」
「ふーむ」
「複利の力の正体は、ビジネスで搾取したお金をまた別のビジネスに投資していけば*2、搾取できるお金をどんどん増やせるという話なんだよ」
「なるほど」
「複利で運用すると自動的にお金が増えていく、と考えてる人がいるとしたら、それは誤解だと言った方がいい」
「うーん。実際に自動でお金が増えるんだから、間違ってないんじゃない?」
「まぁ、その人のお金は増えるね。でも全体では増えないし、複利の力の裏側には搾取の拡大再生産があることを理解しておいてほしいんだ」
「なるほどね」
まとめ
<理解するべきこと>
- お金は何をどうやっても増えない
<上記を理解すると解ける誤解>
- モノを生産するとお金が増える
- 労働するとお金が増える
- 消費するとお金が減る
- ビジネスで儲けるとお金が増える
- 株価が上がるとお金が増える
- お金を貸すとお金が増える
- 複利の力でお金が自動的に雪だるま式に増える
※これらは全て誤解です!
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