「ねぇ、銀行は利息を払っても、給料を払っても、お金を貸しても、キャッシュ・アウトにならないんでしょ?」
「そうだよ」
「実際の銀行って、キャッシュ・フロー計算書とか出してるんでしょ。実際、どうなってるの?」
「そうだね、どうなってるか確認してみようか」
「うん」
「例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループの平成27年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書はこのファイルの19~20ページに書かれてるんだけど、どうなってるか分かる?」
「むむむ……。あっ、『貸出金の純増減』っていう項目があるよ!」
「そうだね。銀行がお金を貸せばこの項目が増える。キャッシュ・アウトになってるね。利息の支払いはありそう?」
「うーん、この『資金調達による支出』ってのには、利息の支払いが含まれるんじゃないかなぁ」
「その通り。これもキャッシュ・アウトになってるね。給料の支払いは?」
「うーむ……無さそうかな……」
「それも実はあるんだ。このキャッシュ・フロー計算書は、損益計算書で計算した『税金等調整前当期純利益』から出発しているからね。給料の支払いはこの当期純利益に含まれているよ」*1
「なーんだ、じゃあ全部書かれてるんじゃない。今までの話は全部ウソだったってこと?」
「そんなことはないよ」
「じゃあ、どういうこと?」
「銀行が利息を払ってもキャッシュ・アウトにならないことは、会計の専門家には分かってるんだ。IFRSのスタッフ・ドラフトにもちゃんと書いてあるよ」
「IFRSの、スタッフ・ドラフト?」
「国際会計基準の草稿だね。ここに公開されてるよ。英語だけどね」
「ほう」
「190番と191番を和訳したものが以下だ」
預金業務のある企業(=銀行)のキャッシュ・フロー
190 銀行に持つ預金の金額を変更するような銀行と顧客との間の取引は、キャッシュ・フロー計算書で、銀行のキャッシュ・インまたはキャッシュ・アウトとして表示すべきである。銀行のキャッシュ・フローとして表示される、預金者と銀行の間の取引には以下のものが含まれるが、これらに限らない。
(a) 顧客勘定に対する利息の貸方記入
(b) 顧客勘定からの手数料の控除
(c) 貸出金の支払い(返済)のための預金者勘定と銀行の間の金額の振替
191 例えば、(預金者が)稼いだ利息について預金者勘定に貸方記入する、または預金者勘定から手数料を控除する商業銀行には、銀行の現金残高を変化させないキャッシュ・フローがある。銀行の現金残高合計は変動しないが、キャッシュ・フローが銀行と顧客の間に生じる。この金額は、キャッシュ・フロー計算書に、キャッシュ・アウト(顧客勘定に貸方記入される利息)及びキャッシュ・イン(手数料の控除)として含まれる。これらの取引を相殺するものは、預金勘定に対する純額の変動(預金の純増減)である。
(サイトでは日本語訳も公開されていますが、良い訳ではなかったので修正しました)
「ふーむ」
「銀行が利息を貸方記入、つまり口座の数字の書き換えで支払っても、銀行の現金残高は変化しない、と書いてあるよね」
「確かに…」
「変化しないんだけど、銀行と顧客の間にはキャッシュ・フローが生じている、だからこれは、銀行の現金残高を変化させないキャッシュ・フローなんだ、と書いてある」
「うーん、こじつけみたいな話ね」
「実際、こじつけだと思うよ。繰り返しになるけど、銀行にとってのキャッシュはベースマネー、つまり現金と日銀当座預金だ。これは口座の数字を書き換えても減らない」
「ふーむ。利息の支払いがキャッシュ・アウトにならないんだとすると、キャッシュ・アウトにならないものをキャッシュ・アウトとして書いちゃったら、計算が合わなくなるんじゃないの?」
「その通り。キャッシュ・アウトでないものをキャッシュ・アウトにすればツジツマが合わなくなる。どうやってツジツマを合わせるのかは、最後の一文に書いてあるよ」
「最後の一文と言うと……『これらの取引を相殺するものは、預金勘定に対する純額の変動、預金の純増減である』……どういうこと?」
「『預金の純増減』という項目によって相殺して、ツジツマを合わせているんだよ。次回、詳しく説明するよ」
「ふむ」
銀行のキャッシュ・フロー計算書を詳しく読んでみたい方は以下のブログを参照してください。上で挙げた三菱UFJフィナンシャル・グループの平成27年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書が解説されています。