「前回、所有は人間の頭の中にある、人間と人間の間の取り決めに過ぎないって話したと思うけど」
「そうだったわね」
「もっと分かりやすい説明を思いついたよ。所有というのは、ゲームのルールなんだ」
「ほう……?」
「僕たちはみんな、この世界でゲームをしていると考えることができるよね」
「ゲーム?人生とかいうクソゲー……ってこと?」
「ははは(笑) まぁ、そういうことだね。我々人間は、地球と呼ばれるゲーム世界で、多人数参加型のロールプレイングゲームをやってるんだよ」
「ふーむ……。そう言えるかもね」
「このゲームのルールブックがマイの手元にあるとイメージしてみて」
「うん」
「そのルールブックをパラパラめくってみて。『所有』という項目が書かれているページがあるだろう」
「えっ……?全ページ白紙なんだけど?」
「……。ルールブックにね、所有という項目がね、書かれているとね、想 像 し て み て ?」
「お、おう……」
「……所有というのは人間同士でやっているゲームのルールなんだよね。動物や虫などは、このゲームにプレイヤーとして参加していない。だから、所有というルールも動物や虫には通用しないんだよ」
「なるほどね。で、所有というルールはどんな風に書かれてるの?」
「そうだなぁ……。こんな感じかな」
所有とは
プレイヤーはゲーム世界に存在するモノ*1を独占的に自分の支配下に置くことが出来る。これを“所有”と呼ぶ。*2
所有の効果プレイヤーは自分が所有するモノを独占的に使用することが出来る。つまり、他のプレイヤーによる使用を拒否できる。使用料を払わせて使用を許可することもできる。
所有の方法
「ふーん。ちょっと難しい、かな……」
「要点を簡単に言うと、『俺はAを所有している。お前はAを所有していない。お前がAを使うなら俺に使用料を支払え』ってことだ*6」
「うーん。なんか一方的な感じがしないでもないわね……」
「そうだね。所有というルールは、所有しているプレイヤーにとって有利で、所有していないプレイヤーにとって不利なんだ。一方的なルールだと言っていい*7」
「ふーむ……」
「持つ者にとって有利なルールを、持つ者が、持たざる者に押しつけてるんだよね」
「うーん。でも、本当にそうなのかな……。誰だって、頑張って働いてお金をたくさん稼げば所有ができるわけだから、公平なルールだと言ってもいいんじゃないの?」
「たとえば、大富豪の家に生まれた子供としてゲームを始めたプレイヤーは、ただ所有のルールの恩恵を受けているだけで、死ぬまで大富豪として過ごせる可能性が高いだろう」
「……そうかもねぇ」
「一方で、貧民の家に生まれた子供としてゲームを始めたプレイヤーは、いくら働いても所有のルールによって取られるばかりで、死ぬまで貧民でいる可能性が高いだろう」
「そうね……」
「ゲームバランス悪すぎると思わない?」
「たしかに」
「現状はやっぱり『人生とかいうクソゲー』なんだよね。でも、これはとても重要なことなんだけど、所有というルールを作ったのは別に神様ではないんだよ」
「あー、ルールを作ったのも人間、か」
「その通り。だから、ルールを変えてもっとバランスの良いゲームにすることだって全く不可能なわけではない」
「ふーむ」
「まぁ、相当に難しいことだろうけどね。もし、プレイヤーの大多数が『所有というルールは不当だ!』と声を上げて、団結して運動するようなことになれば、ルールが変わることもあるだろう」
「なるほど」
「持つ者、たとえば上位1%層の資産家の人達の立場で考えると、持たざる者の人達には『所有というルールは正当だ』と信じていてほしいんだよね」
「そうかもねぇ」
「所有する者は、所有を正当化する理屈を必要とするわけだ」
「ふむふむ。誰が正当化してくれるの?」
「思想家とか哲学者とか言われる人の仕事だね」
「たとえば誰?」
「代表的なのはジョン・ロックという哲学者だ。彼の思想では、所有が正当化されている*8」
「そうなんだ。逆に『所有は不当だ』と言っている人はいないの?」
「『所有とは何か』という本を書いたプルードンという人がいる。この人は『所有とは盗みである』と言い切っているよ」
「へー!面白そう!」
「ネット上で第一章の日本語訳が公開されてるから、興味があれば読んでみるといいよ」
「はーい」
*1:土地や動物もモノに含まれる。
*2:プレイヤーによって作られた疑似プレイヤー(法人)も、モノを所有することが出来る。また、疑似プレイヤー(法人)はプレイヤーに所有されるモノでもある。
*3:ただし例外もある。
*4:多くの場合、自分が所有するモノや自分の労働を相手に提供することと引き替えに相手が所有するモノを譲り渡してもらう。
*5:土地が作物を生み出した場合や、法人が商品を生産した場合など。
*6:Aが土地なら地代、家なら家賃ですね。
*7:ここでは、ボールペンを持っているとか洋服を持っているというような“小さな”所有の話はしていません。あくまで他者からの搾取ができるような“大きな”所有の話です。
*8:ジョン・ロックが持つ者のために所有を正当化したと言うよりは、持つ者が所有を正当化するためにジョン・ロックの思想を利用したと言う方がより事実に近いかも知れません。