今回は、個人や銀行などの経済主体が持つ金融資産を棒グラフで表現すると、色々分かりやすくなるというお話をしましょう。
具体的にはこんな棒グラフです。
これはある人が持つ金融資産(および負債)を棒グラフにしたものです。
現金を6万円、預金を15万円持っているということです。
また、誰かに10万円を貸していて(10万円分の債権を持っていて)、別の人には7万円借りている(7万円分の負債を負っている)という状況です。
全て合計すると、資産が31万円、負債が7万円、差し引き24万円分の金融資産を持っているということですね。
このような図のことを、マネーグラフと呼ぶことにしましょう。
マネーグラフを使うと何が嬉しいのか?
以下のようなメリットがあります。
- 銀行による信用創造について理解が深まる
- 預金通貨とは何か、お金とは何かということについて理解が深まる
- 誰かの資産は誰かの負債であるということがビジュアルで理解できる
上記のマネーグラフは、個人間でのお金の貸し借りをイメージしたものです。
左側が借り手で、右側が貸し手です。
借り手は10万円分の借用証書を書き、これを貸し手に差し入れます。
この時、借り手は10万円分の債務を負い、貸し手は10万円分の債権を得ます。
そして、貸し手が10万円の現金を借り手に渡していますね。*1
ここで、金融資産の合計は貸し借りの前と後で変わらないことに注意してください。
借り手の金融資産は、借りる前も借りた後も7万円です。
貸し手の金融資産は、貸す前も貸した後も27万円です。
10万円の現金と10万円分の借用証書を交換しているのですから当然ですよね。
同額のマネー*2が移動していること、金融資産の合計が変わらないことが分かったので、金額は邪魔ですから消してしまいましょう。
以下のようになります。
さて、マネーグラフの下半分が灰色だったり黄土色だったりしていますが、これにはちゃんと意味があります。
棒グラフの下の横線は地面であり、黄土色の部分は土、灰色の部分はコンクリートだと考えてください。
つまり、土の部分からはマネー(借用証書という他者にとっての資産)を掘り出すことができ、コンクリートの部分からはマネーを掘り出すことが出来ないということです。
私達は、預金の残高をマイナスにして買い物をすることは出来ません。
例えば、預金の残高が1万しか無いのに、10万円のパソコンを買って残高をー9万にすることは出来ませんよね。
同様に、現金の残高をマイナスにして買い物をすることも不可能です。
残高をマイナスに出来ないということを、地面の下を灰色にすることで表現しているわけです。
上記は銀行から個人や法人がお金を借りた時のマネーグラフです。
私達は預金残高をマイナスに出来ないと書きましたが、実は銀行は自行の預金残高をマイナスにすることが出来ます。
つまり、銀行は預金通貨を「土から掘り出して(=自ら債務を負うことで)」顧客に渡すことで貸し付けているわけであり、これこそが「銀行は無から預金通貨を作り出している」ということの意味になります。
「銀行は自分自身の預金口座を持ってるの?」という疑問を持つ方が大半でしょう。
正確には、「銀行は自分自身の預金口座を持っていると考えることが出来る」ということになります。
詳しくは前回のブログ記事を参照してください。
このマネーグラフは、銀行の顧客が銀行に現金を預け入れた時と、現金を引き出した時のイメージです。
現金を預け入れれば(銀行に渡せば)同額の預金通貨を受け取ることができ、現金を引き出す時には同額の預金通貨を銀行に返すということです。
銀行にとって自行の預金残高がマイナスであることさえ理解できていれば、何も分かりにくいところはないですよね。
なお、茶色の棒(現金)と緑色の棒(預金)の動きの前後関係には特に意味はありません。
逆の順番で動かしてもいいし、同時に動かしても構いません。
見やすさのために一つずつ動かしているだけです。
このマネーグラフは、預金の振込みによる送金のイメージです。
X銀行に口座を持つA氏から、Y銀行に口座を持つB氏への送金です。
A氏の預金残高が減る代わりにB氏の預金残高が増え、X銀行からY銀行に現金が移動します。*3
X銀行からY銀行に移動している現金は、実際には日銀当座預金です。*4
この図では日銀券と日銀当座預金を区別せず、両方合わせて「現金」としています。
以上、マネーグラフというものを使ってマネーの動きを説明してみました。
銀行による信用創造とはどういうことなのか、預金通貨とは何なのか、より理解が深まったのではないでしょうか。
マネーグラフを中央銀行や中央政府にも応用して考えることで、より多くのことをビジュアルで分かりやすく説明することが出来ると思います。
次回やってみましょう。
*1:もちろん、現金ではなく預金で貸し付けるなら、緑色の棒が動きます。
*2:借用証書もマネーと考えます。
*3:棒の動く順番にはあまり意味はありません。
*4:つまり、X銀行の日銀当預残高を減らし、Y銀行の日銀当預残高を増やしています。
*5:最後に、マネーグラフとグリーンマネーモデルとの関係について書いておきます。マネーグラフの緑色の棒は、グリーンマネーと同じものではありません。グリーンマネーモデルはマネーストックが増えるのか減るのか不変なのかということが分かるように作っているため、個人や企業が持つ現金通貨はブラウンマネーとグリーンマネーが重なっていると考えます。マネーグラフでは現金通貨は現金(茶色の棒)であり、グリーンマネーではありません。