政府と日銀に出来ることをマネーグラフで見る
前回の記事では金融資産の状態を表すマネーグラフというものを提案し、それについて説明しました。
今回は、中央政府や中央銀行(日銀)のマネーグラフを作ってみました。
作ってみて分かったのですが、マネーグラフを見ると、それぞれの経済主体に何が出来て何が出来ないのかが一目で分かります。
まずは前回の復習を兼ねて、家計や企業のマネーグラフを見てみましょう。
前回は硬貨と紙幣とを分けずに「現金」としていましたが、今回は分けてみました。
これがある人のマネーグラフだとすると、この人はある程度の硬貨と紙幣を持っていて、預金もある程度持っています。
そして誰かにいくらか貸していて、少し大きめの借金があるようです。
ローンで車でも買ったんでしょうかね。
余談ですが、これからローンを組んで家でも買おうかと思っている人は、どんなマネーグラフになるのか一度描いてみるといいかも知れません。*1
この人に限ったことではありませんが、企業や家計が(残高をマイナスにして)地面から掘り出すことが出来るマネーは自らの債務(=借用証書)だけです。
預金残高をマイナスにして家賃を払うことは出来ませんし、紙幣を作って買い物をすることも出来ません。
当たり前ですね。
自ら発行する負債(借用証書や手形)は、紙に万年筆で書くだけで作り出すことが出来る、他者にとって価値のあるマネーと言えるものです。
これも万年筆マネーだと言っていいかも知れません。
これは銀行のマネーグラフです。
前回のマネーグラフでは現金としていたものを、硬貨、紙幣、日銀当座預金の3つに分けています。
銀行のマネーグラフの一番の特徴は、預金通貨を地面から掘り出して(=残高をマイナスにして)貸し付けたり支払ったり出来るということです。
(ここの意味が分からない方は前回の記事を参照してください。)
これは一般の企業や家計には出来ないことであり、預金残高という数字を一括管理している銀行だけの特権だと言えます。
うらやましい限りですね。
政府は硬貨を作り出すことが出来るため、硬貨(発行)として地面を黄土色にして穴を開けています。
この穴の深さの分だけ硬貨を発行しているということです。
土の部分が少しだけで下の方が灰色のコンクリートになっているのは、硬貨を発行できると言っても金額としては少ないためです。
もし、政府が1兆円硬貨を何百枚でも発行することが出来るのであれば、土の部分がもっと深くなるのですが、現状ではそういうことはないですよね。
また、現状のルールでは政府が紙幣を発行することは出来ません。
もし政府が紙幣を発行していいというルールになったとしたら、紙幣の部分が黄土色の土になり、地面から紙幣を掘り出して支出に使うことが出来るようになります。*3
一番右の債務の部分には深い穴が開いていますが、これは国債の発行残高を表しています。*4
最後に、中央銀行すなわち日銀のマネーグラフを見てみましょう。
日銀は地面を掘って紙幣を発行することが出来ますから、紙幣の部分は土になっていて穴が開いています。
この穴の深さの分だけ日銀券を発行しているということです。
また、銀行が預金を地面から掘り出すことが出来るのと同様に、日銀も当座預金を地面から掘り出すことが出来ます。
よって預金の部分が土になっていて穴が開いています。
この穴の深さの分だけ日銀当座預金(および政府預金)を発行していることになります。
例えば銀行が保有している国債を日銀が買い取る場合、当座預金を地面から掘り出して銀行に渡すわけですね。
また、債権をたくさん持っていますが、これは主に国債などの債権や株式です。
中央銀行のマネーグラフを政府のマネーグラフと比べてみると、中央銀行の方が出来ることが多くて自由なマネーグラフに見えませんか?
もう一度、中央政府のマネーグラフを見てみましょう。
マネーに関する限り、政府に出来ることは非常に限られています。
政府は紙幣を発行することが出来ません。
また、政府預金の残高をマイナスにして支出することも出来ません。
なぜこれらのことが出来ないかと言うと、そういうルールになっているからです。*5
政府に出来ることは、わずかに硬貨を発行することと、自らの債務(国債)を発行することだけです。
不自由ですよね。
自由度としては、企業や家計と大して変わらないのではないでしょうか?
この意見に対しては、MMTerの方々はこう言うでしょう。
「いやいや、中央政府と中央銀行を一体と見た統合政府で考えるべきです。統合政府は硬貨も紙幣も当座預金も国債も、全て発行することが出来ますよ」と。
統合政府で考えるならその通りですね。