経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

ビットコインは金に似ているという錯覚

はじめに

前回の記事へのコメントで「仮想通貨は金(gold)と比較するべきでは」というものがありました。
たしかに、仮想通貨が金に似ているという話は良く聞かれますよね。
今回は、仮想通貨の代表格であるビットコインについて、金との類似性を検討してみましょう。

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ある人のブログ記事でビットコインと金の特徴を整理して類似性を検討していましたので、この記事をベースにして検討してみます。
この記事では、金の特徴として有限性、永続性、産業的需要、文化的需要、普遍性、市場性、コモディティ、物価変動特性の8つを挙げ、ビットコインにもこの8つの特徴のうち(文化的需要を除く)7つがあるとしています。
本当にそうなのでしょうか?

coin-otaku.com

有限性

金: 希少鉱物のため、世界中で存在している場所/埋蔵量が限られている

ビットコイン: 理論上、発行枚数が定められている

たしかに、ビットコインは発行枚数の上限が2100万枚と決まっていて、有限だと言えるでしょう。
しかし、類似の仮想通貨を次々に作ることができる点が金とは違っています。
金の場合、金に類似したマネーとして金プラス、金アルファ、金デラックスなどを次々に作ることは不可能です。
 

永続性

金: 強い耐食性を持つため、永遠に腐食・経年劣化しない

ビットコイン: デジタルアセットであるため、世界中のネットワークが破壊されない限りは劣化せず存在する

たしかに、バックアップさえ適切にとっていれば、ビットコインそれ自体は永続すると言ってもいいでしょう。
しかし、ビットコインの価値がゼロにならない保証はありません。

10年後あるいは20年後に、誰もビットコインに見向きもしなくなっているという状況が有り得ないとは言い切れないでしょう。
金については、その価値が10年20年でゼロになることはちょっと考えられません。

普遍性

金: 世界中の人が価値のあるもの(商品)として認知されている

ビットコイン: 世界中、どこでもいつでも誰とでも送金や入金ができる

ビットコインは誰にでも送金できるとは言えません。
ビットコインで送金できるのは、送金する相手がビットコインで受け取ることを了承していて、受け取る準備が出来ている場合だけです。

これは、自分と相手が同じ送金サービスを使っていれば、その送金サービスを使って送金ができると言っているに過ぎません。
イギリスの会社がネッテラー(NETELLER)という送金サービスを提供していますが、自分と相手の双方がネッテラーを利用していればネッテラーで送金できるのは当たり前のことです。

金が持つ普遍性というのは、相手が使っている通貨や送金サービスが何であるかにかかわらず、手渡すだけで決済が完了することを言っているのです。
この意味での普遍性は、ビットコインにはありません。

産業的需要

金: 導電性が高いため、工業用途としても高い需要を誇る

ビットコイン: 用いられているブロックチェーン技術は様々な産業へ波及する可能性がある

ブロックチェーン技術には産業的需要がある」から「ビットコインには産業的需要がある」とするのは、話のすり替えです。
ビットコインそれ自体には工業用の需要も宝飾品としての需要もありません。
ビットコインを溶かして電子部品の材料として使うことも出来ないし、指輪に加工することも出来ませんよね。
ブロックチェーン技術が様々な産業に波及する可能性があるのはその通りですが、ビットコインそのものの価値とは関係ありません。

前回のデス紙幣の話で登場した死神について考えてみましょう。
この死神は、デス紙幣を偽造したり盗んだりした人を殺してくれました。
死神がデス紙幣以外のことにも協力してくれるなら、様々な用途に使うことが出来るでしょう。*1
しかし、この死神の利用価値はデス紙幣そのものの価値とは関係が無いですよね。

ビットコインにおけるブロックチェーン技術は、デス紙幣における死神に相当します。
産業的需要があるのはあくまでもブロックチェーン技術(死神)であって、ビットコイン(デス紙幣)それ自体には産業的需要は無いのです。

市場性

金: 政府の管理で完全にコントロールできず、需要と供給で市場価格が形成される

ビットコイン: 政府の管理で完全にコントロールできず、需要と供給で市場価格が形成される

たしかにビットコインは金と同様に需給で市場価格が形成されています。
しかしそれは、ほとんど価値の無い企業の株が仕手株として祭り上げられている場合でも同じことです。
ビットコインが金と同様に価値がある理由にはなりません。

コモディティ

金: 株や債券と異なり、保有しているだけで金利がつかない(コモディティ

ビットコイン: 株や債券と異なり、保有しているだけで金利がつかない(コモディティの一種)

金もビットコインも持っているだけでは金利はつかない。
もちろんその通りです。
しかしこれは何にでも言えることですよね。
テレビも灯油も米も、持っているだけでは金利はつきません。
金利がつかないという理由でビットコインが金に似ていると言うなら、テレビも灯油も米も金に似ていることになってしまいます。

ついでに言えば、紙幣だって持っているだけでは金利はつきません。
お金は貸して初めて金利がつく。
株や債券に配当や金利がつくのは、お金を貸しているからです。*2
金やビットコインだって、借りたいという人に貸せばレンタル料を取ることは可能ですよね。

ビットコインは持っているだけでは金利がつかないから金に似ている。
たしかにそうですが、何だってそうでしょ?という話です。

物価変動特性

金: 紙幣と違い、物価変動に追随して価値が増減する

ビットコイン: 紙幣と違い、物価変動に追随して価値が増減する

紙幣は物価が変動しても価値が増減しないが、金やビットコインは物価の変動に応じて価値が増減すると書かれています。
物価が変動しても紙幣の価値は増減しないって?
この考え方には根本的な勘違いがあると言わざるを得ません。

物価というものは円などの通貨単位で計りますが、紙幣の価値は通貨単位で計ることは出来ません。*3
「1億ジンバブエドル札の価値は1億ジンバブエドルでずっと変わらない」と言ったって、ハイパーインフレで紙屑同然になったことは事実でしょう。
紙幣の価値はモノで計るしかなく、物価というものは紙幣の価値を計測したものだと言えるのです。

紙幣の価値が下がったら物価の上昇という形で計測され、この時ビットコインや金を含めモノの価格(通貨単位で計られる)は上がっています。
逆に紙幣の価値が上がったら物価の下落という形で計測され、この時モノの価格は下がってます。
金にもビットコインにも物価変動特性があり、紙幣には無いというのは当たり前のことなのです。

まとめ

金とビットコインの類似点として7つ挙げられていましたが、結局全て「似ていない」か「似ていて当然であり特筆すべきことではない」かのどちらかでした。
ビットコインは金に全然似ていないのです。
ビットコインを金にたとえて「デジタルゴールド」などと呼ぶのは不適切なことだと言えるでしょう。

では、ビットコインは何にたとえるのが適切なのでしょうか?
次回の記事で考えてみたいと思います。

*1:たとえば、契約を破ると死ぬ「デス契約書」なんてどうでしょうか。

*2:株の場合、厳密には貸しているのとは違いますが、同じようなものです。

*3:ドルなどの外貨を単位とするなら別ですが。