日銀サイトの説明はゴマカシ
「銀行券が日銀BSの負債に計上されているのはなぜか?」という疑問に対して、日銀のサイトでは以下のように説明されていますが、ここにはゴマカシが隠されています。
銀行券が日本銀行のバランスシートにおいて負債に計上されているのはなぜですか?
歴史的にみると、日本銀行が設立された当初、日本銀行の発行する銀行券は、金や銀との交換が保証されていました。こうした制度の下で、日本銀行は、銀行券の保有者からの金や銀への交換依頼にいつでも対応できるよう、銀行券発行高に相当する金や銀を準備として保有しておくことが義務付けられていました。このような銀行券は、いわば日本銀行が振り出す「債務証書」のようなものだと言えます。このため、日本銀行は、金や銀をバランスシートの資産に計上し、発行した銀行券を負債として計上しました。
その後、金や銀の保有義務は撤廃されましたが、一方で、銀行券の価値の安定については、「日本銀行の保有資産から直接導かれるものではなく、むしろ日本銀行の金融政策の適切な遂行によって確保されるべき」という考え方がとられるようになってきました。こうした意味で、銀行券は、日本銀行が信認を確保しなければならない「債務証書」のようなものであるという性格に変わりはなく、現在も負債として計上しています。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/outline/a23.htm/
説明の前半部分では、金本位制(兌換制)の時代に銀行券が債務であった理由を説明しています。
銀行券が日銀に持ち込まれたら、相応の金(や銀)を渡さなければならない。だから銀行券は債務証書だと言える、という話です。
つまり、日銀が金や銀との交換を保障することで、日銀券の価値を作り出しているのです。
この前半部分の説明には特に問題ありません。
問題は後半部分です。
「その後、金や銀の保有義務は撤廃されましたが、」
日銀が銀行券を金銀と交換しなくてよいことになったため、銀行券の価値を作り出しているものは日銀が保有する金銀ではなくなったということです。
では今は何が銀行券の価値を作り出しているのか?ということを説明しなければなりません。
しかし説明の文章は「一方で、銀行券の価値の安定については、」と続きます。
ここにゴマカシがあります。
価値の源泉は何かという話から、価値を安定させるために何をしているかの話にすり替えられているのです。
お分かり頂けるでしょうか。
銀行券は金銀と交換できなくなってしまったのになぜ価値があるのか?という話をすっとばして、銀行券には何らかの価値がある前提で、その価値の安定についての話をしているのです。
日銀が銀行券の価値を安定させるために出来ることは、「金融政策の適切な遂行」と書かれていますが、ごく簡単に言えば「銀行券が増えすぎないようにする」程度のことです。
確かに銀行券が増えすぎないようにすることで価値は安定するかもしれません。
しかし、増えすぎないようにすることが銀行券の価値の源泉ではありませんよね。
例えば、中学校のあるクラスで一人の生徒が「牛乳瓶のフタを通貨にしよう」と言い出したとします。
この生徒が牛乳瓶のフタを何百枚か集めて、偽造を防ぐためにハンコを押したり、この生徒自身も一定数以上は作らないようにすることで「増えすぎない」ようにします。
このフタ通貨が「増えすぎない」ようにしたとしても、だからと言ってすぐにフタ通貨に価値があることにはならないですよね。
フタ通貨に価値があるとすれば、それはクラスの皆がフタ通貨と引き換えに掃除当番を代わるとか、宿題を手伝うとか、何らかの労働を提供するからであり、そのようにフタ通貨と労働を交換することにクラスの皆が合意しているからです。
銀行券も同じです。
本来紙切れにすぎない銀行券に価値があるのは、貴方や私が銀行券と引き換えに労働(あるいは労働の成果であるモノやサービス)を提供するからであり、そのように銀行券と労働を交換することに国民の皆が合意しているからです。
銀行券の価値を作っているのは我々国民の労働であり、交換についての合意です。
日銀は銀行券の価値安定のために仕事をしているかも知れませんが、銀行券の価値を作り出したり担保したりはしていないのです。
こうした意味で、銀行券は、日本銀行が信認を確保しなければならない「債務証書」のようなものであるという性格に変わりはなく、
日銀に銀行券が持ち込まれても何かと交換する必要はありませんから、銀行券には債務性はありません。
つまり、銀行券は「債務証書」ではありません。