今回は、とあるブログ記事に書かれていた日銀のバランスシートへの疑問に対する回答です。
確かに日銀のバランスシートは普通に見ると謎が多いため、よく吟味しなければ本当のところは理解しにくいものです。
日銀のバランスシートで、なぜ発行銀行券が負債となっているのか?
「発行銀行券」がなぜ負債なのか、というのは実に健全な疑問だと思います。
貴方が考えている通り、日銀に実質的な負債はありません。
日本がもし金本位制だったとすれば、日銀券が持ち込まれて求められれば正貨(ゴールド)と交換しなければなりませんから「発行銀行券」は債務だと言えます。
しかし現代の管理通貨制度では正貨との交換はしなくて良いので債務とは言えませんよね。
日銀の当座預金も、引き出しを求められたら日銀券を渡さなければならないという意味で債務ですが、日銀にとっては印刷して発行すればいいだけですから、実質的には債務ではありません。
次に、勘違いしやすい点ですが、日銀BSの発行銀行券はキャッシュ(現金)のことではありません。
これは日銀券をどれだけ発行したのか、という単なる数字(発行残高)です。
この数字にどんな意味があるかと言えば、これだけの日銀券が日銀の「外」にあるということです。
日銀の「中」にあるのではないので、日銀の資産ではないのです。
では、印刷して日銀の中にある日銀券はBSのどこに現れるのか?と言うと、どこにも出てきません。
未発行の日銀券は簿記会計的にはただの紙切れの束であり、BSには載っていないのです。
「未発行の日銀券はBSに載っていない」と書きましたが、逆に言えば「発行済みの日銀券はBSに載っている」ということです。
言い換えると、「日銀券の発行とは、日銀のBSに載せることで紙切れをお金にする作業のこと」だと言えます。
どのように載せるのかと言うと、仕訳で書くと以下のようになります。
借方:現金 / 貸方:発行銀行券
したがって、日銀券が発行されると現金が資産側に計上されるはずです。
ところが実際のBSには日銀券は現金として資産計上されていません。
これはなぜかと言うと、日銀券が発行されるタイミングに秘密があります。
日銀券は、銀行が当座預金を引き出した時に同時に同額が発行されるのです。
発行した瞬間に引き出されてしまうため、日銀BSの資産側には現金としての日銀券が現れないというわけです。
日銀は誰から借金をしているのか
「日銀は誰から借金をしているのか」というのも素晴らしい着眼点だと思います。
誰から借金しているのかを知るには、「返済しろ」とか「金利を払え」と言ってくるのが誰なのかを考えれば良いことです。
もちろん、日銀に「返済しろ」と言ってくる人や組織は存在しません。
これが借金であるとするなら、誰でもない人=nobody からの借金なのです。
従って、先ほど書いた日銀券発行時の仕訳は以下のように書くべきです。
借方:現金 / 貸方:nobody からの借金
このような仕訳で日銀のBSを作成した場合、ざっくり以下のような形になります。
資産:国債 / 負債:nobody からの借金
/ 負債:当座預金
このBSだったら意味が分かるのではないでしょうか。*1
公表されているBSで「nobody からの借金」が「発行銀行券」とされているのは、単にnobody からの借金の総額が銀行券の発行残高と一致するから嵌め込まれているだけ、というのが私の考えです。