「今回は、借金をした人がみんな元金と金利を返せるのかを考えよう」
「そりゃ、商売に成功した人は返せるし、失敗した人は返せないでしょ」
「まぁそうだね。じゃあ、もしみんなが商売の天才だったら全員が返せるのかな」
「うーむ……。前回の話じゃあ、金利分のお金は作られてないって話だったわね」
「その通り。その点を、具体的な数字を使って考えてみよう」
「ふむ」
「ある小さな村の経済を考えるよ。この村にはまだお金というものが無いとしよう」
「ほう。物々交換でもやってるの?」
「そうだろうね。この村に銀行が作られて、お金の流通が始まるとする」
「ふむ」
「この銀行は、中央銀行と民間銀行の役割を兼ねているよ」
「ほう。中央銀行の役割があるってことは、紙幣を発行するってこと?」
「そういうこと。そして、その紙幣を村人に貸し付けるわけだ」
「ふむふむ」
「この銀行は、あらかじめ沢山の紙幣を印刷して金庫に準備している」
「そうでしょうね」
「でも、この銀行が金庫に手持ちしている紙幣は村に流通しているとは言えない。あくまで、誰かに貸し付けて初めて村に流通するわけだよね」
「ふーむ。日銀の金庫にある日銀券が紙切れなのと同じってわけね」
「そういうこと。さて、この銀行では毎年の元日に、誰かに100万円を貸し付けていくことにした」
「ほう」
「金利は5%の単利で、10年後に一括で元金と金利を返済するという条件だ。つまり、150万円を返すことになる。返すのは10年後の元日ではなく、その前日の大晦日にしよう」
「ふーん」
「一年目の元日、Aさんに100万円を貸し付ける。この年を村歴元年としよう。Aさんは村歴10年の大晦日に150万円を返すことになる」
「ふむふむ」
「Aさんはこの100万円を設備投資や仕入れに使い、商売を始めることになるから、この100万円が村に流通する。村歴元年のマネーストック、お金の流通量は100万円だ」
「そりゃそうね」
「村歴2年の元日には、Bさんに100万円を貸し付ける。この年のマネーストックは200万円だね」
「そうね」
「こうして毎年100万円を貸し付けていくと、村歴10年にはマネーストックが1000万円になる。そして、その年の大晦日に最初の貸付が返済されることになる」
「ふむふむ」
「Aさんが元利合計で150万円を銀行に返すから、この瞬間、村に流通するお金は850万円になるよね」
「たしかに…」
「翌日、村歴11年の元日、また100万円が貸し付けられるから、マネーストックは950万円になるんだけどね」
「それでも、前年の1000万円から比べると50万円減っちゃってるわ」
「その通り。これが前回言った、『金利の分だけ世の中全体のお金が減る』ということだ」
「ふーむ」
「これをずっと続けていくと、毎年50万円ずつマネーストックが減っていくことになる。グラフにするとこうだ」
「10年かけて1000万円になったマネーストックが、どんどん減っていくわけね。もう一つの折れ線は何?」
「これは、毎年の大晦日の返済額だよ。村歴10年以降、ずっと150万円だね」
「なるほど」
「村歴28年には、マネーストックが100万円になってしまう。村歴19年の元日に100万円を借りた人は、この年の大晦日に150万円を返さなきゃいけなくなる。これは村中のお金をかき集めても不可能だよね」
「確かに……。じゃあ、どうすれば良かったのかな。村全体のお金が減らないようにできないの?」
「そうだね。じゃあ、マネーストックが減らないように貸付額を調整してみよう」
「どんな風に?」
「村歴10年の大晦日にはマネーストックが850万円になったよね。だから、翌日の元日には150万円を貸し付けることにしよう。これでマネーストックを1000万円に維持できる」
「ふむふむ」
「この150万円の貸し付けは、一人の村人に貸してもいいし、複数の村人に貸してもいい。とにかく、合計で150万円を貸し付ける」
「ふむ」
「村歴11年の元日に150万円を借りた人たちは、村歴20年の大晦日に225万円を返すことになる。マネーストックを維持するには、翌日の元日に225万円を貸し付ける必要があるよね」
「そうね」
「これを続けていくと、返済額が10年ごとに増えていくことになる。グラフにするとこうだ」
「あちゃー……」
「村歴51年の元日に合計で約759万円を借りた人たちは、村歴60年の大晦日に合計で約1139万円を返すことになる。これも全員が返すことは絶対に不可能だ」
「そうなるわね」
「これは、仮に借りた人が全員商売の天才で、全員が寝る間も惜しんで商売に精を出していたとしても、誰かが返済できない状態になるってことだからね」
「なるほど……。前回、『椅子取りゲームだ』と言っていた意味が分かったわ」
「そうでしょ。金利というものがあると、借金を全員が返すことは物理的に不可能なんだよ」
「うーん……。でも、もっと貸付額をどんどん増やしていけば、全員が返せるようにすることも出来るんじゃないの?」
「確かにそうだね。貸付額をどの程度増やしていけば全員が返せるのか、また次回考えることにしようか」
「ふむ」