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経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

公共事業はマネーストックを増やす

「ねえねえ」
「なに?」
「この前ツイッター見てたら、公共事業マネーストックを増やすかどうかで言い争ってる人たちがいたんだけど」
「へぇ」
「実際、どうなの?」
「そうだねぇ……。マネーストックというのは我々が使えるお金の総額のことだけど、何がお金を増やして、何がお金を減らすのかっていうのは、日銀が公表してる統計データを見ればある程度わかるよ」
「そうなの?どんな統計データ?」
「マネタリーサーベイという統計なんだけどね。日銀と全ての銀行*1のバランスシートを合算して調整したものをマネタリーサーベイ総括表と言うんだ」
「ふーん。金融機関全体のバランスシートってこと?」
「そんな感じだね。例えば2016年9月末時点の総括表はこんな形をしているよ」

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「ほほぅ…」
「バランスシートだから、資産の合計と負債の合計は一致しているよね」
「そうね」
「そして、黄色く色をつけた部分はM3というマネーストックになっているんだ」
「えっ、金融機関のバランスシートを合算しただけなんでしょ」
「そうだよ」
「うーん、預金通貨は分かるけど、なんで現金通貨がここにあるの?」
「日銀の負債にある発行銀行券から、銀行の資産にある手持ち現金を差し引くと、現金通貨が残るんだよ*2
「ふーん。良く分からないけど、そうなのね」
「うん。マネーストックが負債側にあって、資産と負債がバランスしている。ということは、この表からマネーストックの増減要因が分かるでしょ」
「…と言うと?」
「資産側の項目の金額が増えれば、マネーストックの増加要因になる。逆に、負債側の『その他負債(純)』が増えれば、マネーストックの減少要因になる」
「なるほど」
「資産側に、政府向け信用っていう項目があるでしょ」
「うん。信用ってどういう意味?」
「貸し付けって意味だと思っていいよ」
「金融機関から政府への貸し付けってことね」
「そうそう。国債なんかが含まれるよ」
「ふむ。(純)っていうのは?」
「逆に、政府から金融機関への貸し付けも少しあるからね。それを差し引いた純額ってことだよ」
「ふむふむ」
「この政府向け信用の増減に着目して、マネーストックの増減との関係を見てみよう」
「ほう」
「年度ごとのマネーストックの増加額と、政府向け信用の増加額をグラフにするとこうなるよ」

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「ふーむ……」
「だいたい同じような動きになってるよね」
「そうね……」
「この期間、政府向け信用の増加がそのまま、マネーストックの増加になってる感じでしょ」
「確かに……。でも偶然じゃない?」
「まぁ、他の項目が全部一定で増減が無いわけじゃないけどね。とにかく、政府向け信用の増減がマネーストックの増減要因になっていることは間違いないでしょ」
「それはそうね。でも、どうして政府向けの貸し付けが増えたの?」
「政府が赤字だからだよ」
「えっ?」
「最近の政府の財政は、財源が100兆円ぐらい、支出が130兆円ぐらいで、毎年30兆円の赤字を出してるんだ*3
「へー!」
「足りない30兆円は、借りるしかないよね」
「それが、金融機関の政府向け信用ってこと?」
「半分正解。政府が借りる相手は、金融機関か公衆かだ。金融機関から借りれば、金融機関の政府向け信用が増えることになる」
「ふむふむ。公衆って何?」
「政府や金融機関以外の経済主体のことだよ。具体的には、一般の企業や家計、地方自治体なんかだね*4
「ふむふむ。政府はそれぞれから、どれぐらい借りてるの?」
「平均すると、金融機関からは毎年20兆円ほど借りているね」
「ってことは、公衆からは平均して毎年10兆円ぐらい借りてるってことね」
「そうなるね。そして、この金融機関から借りた20兆円がマネーストックを増やしている」
「政府向けの信用だからね」
「そう。これでやっと本題に入れるんだけど」
「長かったわね」
「政府が公共事業をやると、政府の支出が増えて、財源が不足するよね」
「そうね」
「その不足分の3分の2程度を金融機関から借りるとすれば、その借りた分だけマネーストックは増えることになる」
「確かに。残りの3分の1は公衆から借りるんでしょ。これはマネーストックを増やさないの?」
「増やさないよ。公衆から政府に貸したお金が公衆に戻ってくるだけだから、プラスマイナス0だ」
「ふむ」
「結論としては、公共事業をやればマネーストックが増えるってこと」
「でもさぁ、政府がやらなくても民間の企業が同じことをしてたとすれば、公共事業をやってもやらなくても同じだったってことにならない?」
「そうなんだけどね。公共事業ってのは、民間企業が勝手にやらないことをやるんだよ」
「と言うと?」
「たとえば、道路が無い地域に道路を作るという工事を、民間企業が勝手にやると思う?」
「うーん、お金を払ってくれる人が居ないか……」
「そうでしょ。だから、公共事業をやればやっただけ、マネーストックを増やすことが出来るよ」
「ふむ」
「あと、今話したのは政府が公共事業をやった時の直接的な影響の話だけだからね。二次的な影響でマネーストックがさらに増えることもあり得るよ」
「二次的な影響って?」
「たとえば、リニアモーターカー公共事業の一環で作ったとしたら、それによって経済活動が活発になって、民間企業への貸し付けが増えることは十分に考えられるでしょ」
「ふーむ、なるほどね。良く分かりました」

*1:より正しくは預金取扱機関です。国内銀行、在日外銀、農林水産金融機関、中小企業金融機関等、合同運用信託が含まれます。

*2:日銀当座預金については、日銀BSの負債側と銀行BSの資産側に同額があり相殺されます。また、流通貨幣(硬貨)については、日銀の資金循環統計やマネタリーサーベイでは日銀券と同様に日銀の負債として扱われます。

*3:政府の歳入と歳出は同額ですが、借金やその返済を除いた純粋な財源の額と支出の額は、財務省サイトの「国の財務書類」で見ることができます。

*4:マネタリーサーベイ総括表の「その他金融機関」は公衆には含まれません。(12月2日修正)

黒田バズーカは貨幣乗数を殺した

黒田日銀による量的・質的金融緩和、いわゆる異次元緩和によって何が起きたのでしょうか。

実際のデータから検証してみたいと思います。

異次元緩和でやりたかったことは以下の3つです。

  1. 企業や個人の資金需要を喚起しする
  2. 銀行からの貸し出しを増やす
  3. インフレ率を2%まで上昇させ安定させる

これらの目的のために、日銀はお金(ベースマネー)を大量に作って供給し、日銀が作ったお金の総額(マネタリーベース)を大きく増やしました。

結果として、3のインフレ率上昇が実現していないことはご存じの通りです。

1と2については私たち家計や企業が使うお金の総量(マネーストック)を増やしたかったわけですが、実際には増やすことが出来たのでしょうか。

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このグラフは、年度毎にマネタリーベース(MB)とマネーストック(MS)がどれぐらい増えたのかをまとめたものです。*1

例えば2008年度にはマネタリーベースは約6兆円増え、マネーストックは約13.5兆円増えています。

黒田日銀の異次元緩和が始まったのは2013年度。

青い棒が急に伸びているのが分かるでしょう。

12年度に22.3兆円だったマネタリーベースの増加額は、13年度には73.9兆円と大幅に伸びています。

この時マネーストックはどうなっているかと言うと、12年度に28兆円増だったものが、13年度には32.6兆円増と、大して増えていません。

その後も気が触れたかのようにマネタリーベースを増やしているにもかかわらず、マネーストックの増加額は大して増えていませんね。

これは、「マネタリーベースを増やすことによってマネーストックを増やす」ことは出来なかったということです。

貨幣乗数の死

マクロ経済学の教科書には貨幣乗数というものが載っていて、マネタリーベースを増やすとその金額の貨幣乗数倍だけマネーストックが増えることになっています。

例えば貨幣乗数が5であれば、マネタリーベースを1兆円増やせばマネーストックは5兆円増えるという具合です。

しかしこのグラフを見れば、そのようなことは実際には起きていないことが分かるでしょう。

グラフの他の部分を見ても分かりますが、マネタリーベースの増減と、マネーストックの増減とは、あまり関係が無いのです。

少なくとも、マネタリーベースを増加したことがマネーストックの増加額に影響を与える、という関係にはありません。

要するに貨幣乗数などというものはウソだということです。

貨幣乗数というウソを教科書に載せて経済学部の学生に教えることの弊害は、サイモン・レンルイスという経済学者が Kill the Money Multiplier!というブログ記事に書いています。(拙訳:貨幣乗数に死を!

黒田日銀は異次元緩和という壮大な社会実験を実施して貨幣乗数がウソであることを実証し、貨幣乗数なる机上でしか通用しない概念に死をもたらしたことになるでしょう。

 

*1:マネーストックとしては現在代表的な指標と言われているM3を採用しました

全員が借金を返済するには

前回は、金利があると借金をした人全員が元金と金利を返すことは不可能だという話をしたよね」

「うん。でも、貸付額をどんどん増やしていけば全員が返せるように出来るんじゃない?」

「そうかも知れないね。どれぐらい増やしていこうか」

「最初の年が100万円でしょ。それから毎年10万円ずつ増やしてみたら?」

「ふむ。村歴2年に110万円、村歴3年に120万円と、貸付額を10万円ずつ増やしてみようか。返済額とマネーストックがどうなっていくかと言うと……」

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「あら、返済額がマネーストックを越えちゃうわね」

「そうなんだ。これは、毎年20万円ずつ増やそうが、30万円ずつ増やそうが同じことで、貸付額を直線的に増やしていてもダメなんだ」

「どうして?」

「返済額が複利の借金のように増えちゃうからね」

「なんで?金利は5%の単利なのに」

「うーん、前回出したこのグラフを見れば一目瞭然だと思うよ。金利は5%の単利でも、返済額はガンガン上がってるでしょ」

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「確かに……。じゃあ、貸付額を直線的にじゃなくて、ガンガン増やさなきゃだめなのね」

「そうだね、複利的に増やさないとダメだなんだ。例えば、毎年の貸付額を前年の5%増しにするとこうなる」

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「これなら大丈夫ね」

「一応、全員が返すことは不可能ではないね」

「ふむ。これが毎年5%増しじゃなくて毎年4%増しだったら?」

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「村歴57年に返済が不可能になるね」

「村中のお金を集めても返済できないわけね」

「うん。数字を変えながら調べてみると、毎年4.6%増しだと村歴146年に返済が不可能になるけど、4.7%だとギリギリ不可能にはならないことが分かったよ」

「ふむ。大ざっぱに言うと、毎年5%増しにしないと返済が不可能になるわけね」

「そういうことだね。要するに、金利分のお金を銀行がどんどん作っていないと、元金+金利の返済は不可能になるという、ごく当たり前の話なんだよ」

「そうなのね。返済が不可能になると、経済が破綻ってことなの?」

「いや、全然そういうことじゃないよ。現実の世界で、借金の返済が出来なくなった人はどうなる?」

「うーん……。マンガだと、家を取られちゃうとか、マグロ漁船に乗るとか……」

「そうだね。マグロ漁船に乗るってことは、働いて得られるお金の大半を取られちゃうってことだよね。ようするに、タダ働きをさせられる」

「そうね」

「家を取られるのも同じことだよ。働いて得たお金で買った家を取られるというのは、家を買うために働いたのがタダ働きになってしまったってことでしょ」

「そう言えるかもね」

「借金が返せなくなった人はタダ働きをさせられる。そして、金利というものがあると必ず借金を返せなくなる人が出るんだよ。椅子取りゲームで椅子に座れない人が必ず出るようにね」

「ははぁ」

「これは、借金が返せなくなった人だけの話ではないんだよ。私達はみんな、金利の分だけタダ働きをさせられてるんだ」

「えっ……。誰に?」

「もちろん、金利を取る側の人にだよ」

「うーむ……」

誰もが元金と金利を返せるのか

「今回は、借金をした人がみんな元金と金利を返せるのかを考えよう」

「そりゃ、商売に成功した人は返せるし、失敗した人は返せないでしょ」

「まぁそうだね。じゃあ、もしみんなが商売の天才だったら全員が返せるのかな」

「うーむ……。前回の話じゃあ、金利分のお金は作られてないって話だったわね」

「その通り。その点を、具体的な数字を使って考えてみよう」

「ふむ」

「ある小さな村の経済を考えるよ。この村にはまだお金というものが無いとしよう」

「ほう。物々交換でもやってるの?」

「そうだろうね。この村に銀行が作られて、お金の流通が始まるとする」

「ふむ」

「この銀行は、中央銀行と民間銀行の役割を兼ねているよ」

「ほう。中央銀行の役割があるってことは、紙幣を発行するってこと?」

「そういうこと。そして、その紙幣を村人に貸し付けるわけだ」

「ふむふむ」

「この銀行は、あらかじめ沢山の紙幣を印刷して金庫に準備している」

「そうでしょうね」

「でも、この銀行が金庫に手持ちしている紙幣は村に流通しているとは言えない。あくまで、誰かに貸し付けて初めて村に流通するわけだよね」

「ふーむ。日銀の金庫にある日銀券が紙切れなのと同じってわけね」

「そういうこと。さて、この銀行では毎年の元日に、誰かに100万円を貸し付けていくことにした」

「ほう」

金利は5%の単利で、10年後に一括で元金と金利を返済するという条件だ。つまり、150万円を返すことになる。返すのは10年後の元日ではなく、その前日の大晦日にしよう」

「ふーん」

「一年目の元日、Aさんに100万円を貸し付ける。この年を村歴元年としよう。Aさんは村歴10年の大晦日に150万円を返すことになる」

「ふむふむ」

「Aさんはこの100万円を設備投資や仕入れに使い、商売を始めることになるから、この100万円が村に流通する。村歴元年のマネーストック、お金の流通量は100万円だ」

「そりゃそうね」

「村歴2年の元日には、Bさんに100万円を貸し付ける。この年のマネーストックは200万円だね」

「そうね」

「こうして毎年100万円を貸し付けていくと、村歴10年にはマネーストックが1000万円になる。そして、その年の大晦日に最初の貸付が返済されることになる」

「ふむふむ」

「Aさんが元利合計で150万円を銀行に返すから、この瞬間、村に流通するお金は850万円になるよね」

「たしかに…」

「翌日、村歴11年の元日、また100万円が貸し付けられるから、マネーストックは950万円になるんだけどね」

「それでも、前年の1000万円から比べると50万円減っちゃってるわ」

「その通り。これが前回言った、『金利の分だけ世の中全体のお金が減る』ということだ」

「ふーむ」

「これをずっと続けていくと、毎年50万円ずつマネーストックが減っていくことになる。グラフにするとこうだ」

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「10年かけて1000万円になったマネーストックが、どんどん減っていくわけね。もう一つの折れ線は何?」

「これは、毎年の大晦日の返済額だよ。村歴10年以降、ずっと150万円だね」

「なるほど」

「村歴28年には、マネーストックが100万円になってしまう。村歴19年の元日に100万円を借りた人は、この年の大晦日に150万円を返さなきゃいけなくなる。これは村中のお金をかき集めても不可能だよね」

「確かに……。じゃあ、どうすれば良かったのかな。村全体のお金が減らないようにできないの?」

「そうだね。じゃあ、マネーストックが減らないように貸付額を調整してみよう」

「どんな風に?」

「村歴10年の大晦日にはマネーストックが850万円になったよね。だから、翌日の元日には150万円を貸し付けることにしよう。これでマネーストックを1000万円に維持できる」

「ふむふむ」

「この150万円の貸し付けは、一人の村人に貸してもいいし、複数の村人に貸してもいい。とにかく、合計で150万円を貸し付ける」

「ふむ」

「村歴11年の元日に150万円を借りた人たちは、村歴20年の大晦日に225万円を返すことになる。マネーストックを維持するには、翌日の元日に225万円を貸し付ける必要があるよね」

「そうね」

「これを続けていくと、返済額が10年ごとに増えていくことになる。グラフにするとこうだ」

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「あちゃー……」

「村歴51年の元日に合計で約759万円を借りた人たちは、村歴60年の大晦日に合計で約1139万円を返すことになる。これも全員が返すことは絶対に不可能だ」

「そうなるわね」

「これは、仮に借りた人が全員商売の天才で、全員が寝る間も惜しんで商売に精を出していたとしても、誰かが返済できない状態になるってことだからね」

「なるほど……。前回、『椅子取りゲームだ』と言っていた意味が分かったわ」

「そうでしょ。金利というものがあると、借金を全員が返すことは物理的に不可能なんだよ」

「うーん……。でも、もっと貸付額をどんどん増やしていけば、全員が返せるようにすることも出来るんじゃないの?」

「確かにそうだね。貸付額をどの程度増やしていけば全員が返せるのか、また次回考えることにしようか」

「ふむ」

モノを生産するとお金が増えるという誤解

「今回は、お金についての良くある誤解について考えよう」

「誤解ってどんな?」

「人や企業がモノを作るとお金が増えるという誤解だ」

「えっ?モノを作って、かかった原価に利益を乗せて売ればお金が増えるじゃない」

「ミクロではその通りだけど、マクロではお金は移動しただけで全く増えていない」

「マクロって?」

「世の中全体で見た場合ってこと。例えば世の中全体のお金の量が合計で500万円だったとするよね」

「えっ、少なすぎでしょ」

「小さな村だと思って。村人のAさんがBさんから丸太を1万円で買って、仏像を作って3万円でCさんに売ったとしよう。お金の量は増えたかな?」

「丸太を買った時は、1万円がAさんからBさんに移動しただけだから、全体ではお金は増えてない……か」

「そうだよね」

「仏像を売った時も、3万円がCさんからAさんに移動しただけか。全体ではお金は増えてないわ」

「その通り。Aさんは仏像を作って売ることで2万円儲けたけど、村全体のお金は500万円のままで、増えたりはしていない」

「そりゃそうね。当たり前と言えば当たり前だわ」

「そうでしょ。でも、『モノを生産するとお金が増える』という風に漠然と考えている人は結構いるんだ」

「ふーむ」

「同様に、『労働するとお金が増える』というのも良くある誤解だ。働いて給料をもらった時も、お金が移動するだけで増えたりはしない」

「確かにそうかもね。でも、そういう誤解があったとして何か問題でもあるの?」

「問題は、この誤解が新たな誤解を生むことなんだ」

「どんな?」

「企業や個人が銀行に支払う金利についての誤解だね」

金利?」

「企業は銀行からお金を借りて、お金のレンタル量、すなわち金利を支払うでしょ」

「そうね。企業が出した利益の一部を、金利として払ってるわね」

「ミクロではその通り。でもマクロでは、この企業が利益を出しても世の中全体のお金が増えるわけではないよね」

「そうね」

「お金は増えてないのに、金利は払わなきゃいけないんだ。分かる?」

「うーん……」

金利分のお金は、誰が作ったんだろうね」

「うーん?……世の中に、元からあったお金……?」

「うん。そうだとすると、金利の分だけ世の中全体のお金が少なくなっちゃうんじゃないかな」

「え???銀行に金利を払うとお金が減るの?」

「そうなんだよ。そのことについては次回また話そう。今は、企業が儲けを出してもお金は増えないということと、金利分のお金は作られていないということだけ理解しておいて」

「ふむ。それは分かったわ」

「個人が銀行で住宅ローンなんかを借りた時も同じことなんだ。借りた人は一生懸命働いてお金を稼いで、元金を返して金利を払うわけだけど、働いても世の中全体のお金は増えない。金利分のお金は作られていないんだ」

「なるほど」

「企業が利益を出すとお金が増える、働くとお金が増えるという誤解があると、誰でも頑張れば元金と金利を払えるような気がするでしょ」

「そうね」

「でも実際は、金利分のお金は限られたお金の奪い合いになるから、必ず返せない人が出るんだよ。これは椅子取りゲームなんだ」

「ふーむ。そうなのかな……」

「この点も次回、具体的に説明するよ」

「ふむ」

お金を作って遊んで暮らす方法

「今回は、一生遊んで暮らす方法を教えよう」

「えっ、知りたい!どうすればいいの?」

「まず、お金というものが無くて、物々交換をやっている村を見つける」

「えー……前提が無茶すぎるわよ。だいたい、物々交換をやってた社会なんて無かったって聞いたけど?」

「そうだね。良く考えてみれば、物々交換なんて不便すぎるから、それだけで経済が回るなんてことは無さそうだよね」

「そうだとすると、どうやってたのかな」

最初の通貨システム

「お金が無い時代、モノを買う時にはツケで買っていたと考えるのが合理的だろうね」

「ツケ?」

「Aさんが持っている肉をBさんが欲しいとするよね。でも、Bさんは代わりに渡すモノは何もない。この時、『今度魚を取った時に3匹渡すから』と約束して、肉をもらうんだよ」

「ああ、なるほど。でも、口約束だけじゃ不安かも」

「そうだね。Aさんとしては、この約束を目に見える形にしておきたい。もし、紙やペンが普通にある社会なら、Bさんに手形のようなものを書いてもらうだろうね」

「ふむふむ」

「もし、Aさんが別の人から買い物をする時に、このBさんの手形で買うことが出来たら便利だよね」

「確かに。Aさんは魚が欲しいとは限らないもんね」

「うん。Aさんにモノを売った人も、Bさんの手形をBさんに渡して魚をもらってもいいし、別の人との取引に使ってもいい」

「Bさんの手形が商品券みたいになっちゃうわけね」

「そうそう。こんな風に、人々が発行した手形がお金として流通している村があったとしよう」

「えーっと、遊んで暮らす方法の話だったよね?」

「そうだよ。この村を利用して遊んで暮らすんだ」

「うーん……」

手形通貨は理想の通貨

「この手形の通貨は、ある意味で理想の通貨なんだ」

「どうして?」

「まず、この通貨には金利がつかない。魚3匹の手形が来年になったら魚4匹になる、なんてことをする必要性は無いでしょ」

「ふーむ。必要な時に新鮮な魚を3匹もらえばいいもんね。手形で持ってる間、腐らないだけありがたいかも」

「そうでしょ。それから、手形は必要な時に必要なだけ作れるから、不足するということが無いよね」

「確かに。紙に数字を書くだけで作れるもんね」

「そして、誰にでもお金を作ることが出来るから、お金が無いせいで飢えるということも無いんだ」

「なるほど。仕事が無くても手形を書いて買い物が出来るもんね。でも、渡した手形が持ち込まれて『何か価値のあるモノを渡せ』と言われたら困らない?」

「その時は『申し訳ないが今は何も無い。何か仕事をくれませんか』と言えばいいでしょ」

「あー!確かに!自分が持ってる手形を発行した人に『仕事をくれ』って言われたら、ムゲにも出来ないもんね」

「失業対策にもなって、ちょうどいいでしょ」

「なるほどね。ところで……遊んで暮らす方法の話だったよね?」

「そうだよ。この村に入り込んで、通貨の発行権を人々から奪って独占するんだ」

「ほう……」

通貨発行権を奪おう!

「この理想の通貨にも、もちろん不便なところはあるよね」

「うーん、ヘンな人が発行した手形は受け取りたくないっていうか……」

「そうだよね。発行した人が信用できるかどうかによって、手形の価値が変わってくるよね。例えば、毎日お酒を飲んでて働こうともしない人の手形は、誰だって受け取りたくない」

「そうよねぇ」

「だから、手形を受け取る時には発行した人をチェックして、どれぐらい信用できそうかを判断しなきゃいけないんだ」

「うーん、そりゃ面倒だわ」

「小さな村ならそれでもなんとかなるけど、人口が増えて何百人になったらもう無理だよね」

「そうね」

「この点につけこもう。この村に流通する手形を全て、君が作る手形と置き換えるんだ」

「えっ。そりゃ、流通する手形が一種類になったら便利になるけど……。そんなこと出来るの?」

「これを実行するには、まず君の信用が重要になる。彼女は誰よりも信用できる、という評判を勝ち取らなきゃいけない」

「どうすればいいの?」

「真面目に働いて、約束と言えることはどんなに小さなことでも絶対に守るようにするんだ」

「えー、真面目に働くの?遊んで暮らす方法の話だったよね?」

「そうだよ。ある時期が来たら働かなくてすむようになるから、それまでは頑張ろう」

「うーん。それでどうするの?」

「手形を準備しよう。マイが発行する手形だから、マイ手形と呼ぶことにするよ」

「マイ?マイって私の名前?」

「そうだよ」

「初めて知ったわ……」

「マイ手形は、使うのに便利なように額面を定額にしておく。例えば、一万円の手形や千円の手形などを大量に印刷しておくんだ」

「ふむふむ。通貨単位は円なの?」

「通貨単位はその村で使われているものに合わせればいい」

「ふむ。それで?」

「この手形を使って、人々が持っている手形を買い取っていくんだ。マイ手形は使いやすくて便利ですよ、とか言ってね」

「売ってくれるかな」

「信用力の低い手形はその価値に応じて安く買い取るんだけど、少し色をつけて高めに買ってあげれば喜んで売ってくれると思うよ」

「なるほど。出来そうな気がしてきたわ」

「そうやってどんどん買い取っていくと、村に流通する手形はマイ手形ばかりになっていく」

「ほうほう」

「そうすると、人々は知らない人の手形よりもマイ手形を喜んで受け取るようになる。誰もが受け取る手形だから、自分も安心して受け取れるんだ」

「ふむふむ」

「こうなってくると、流通する手形の全てがマイ手形になるのも時間の問題だ」

「おー。そうするとどうなるの?」

「マイ手形こそが、この村でのお金ということになる。この村ではもともと、誰でも手形を発行してそれで買い物ができたんだけど、今ではマイ手形以外はほとんど誰にも受け取ってもらえない」

「おお」

「お金が必要な人は、自分の手形を君のところに持ってきて、マイ手形と交換してくれと言うしかないんだ」

「なるほど……」

「この時点で、君はこの村の通貨発行権を独占したことになる」

「やったわ!私の手形が欲しければ、靴をお舐めなさい!おーっほっほ!ってなるわけね」

「そうだね。念のため、政治家を使ってマイ手形以外の手形を作ることは禁止する法律を作らせよう」

「そんなこと、できる?」

「マイ手形を渡せば大丈夫だよ」

「ふむ……」

「これで、君に逆らえる人は誰もいなくなるよ。ついでに、マイ手形が君のところに持ち込まれても何も渡す必要は無い、という法律を作っておくのもいいね」

利子を取ることを正当化しよう!

「ふーむ。でも、ここまででやってることって手形の交換だけで、別に儲かってないんじゃない?」

「この時点でも、自分で作った手形で買い物できるから、遊んで暮らすことは出来るけどね。せっかくだからもっと儲けよう」

「儲けよう!」

「君のところに手形を求めてやって来た人には、将来、マイ手形で返すことを約束させるんだ。しかも、利子をつけてね」

「利子を?」

「そう。例えば、100万円分のマイ手形を渡して、5年後に120万円分のマイ手形で返してもらう」

「うーん、良く分からなくなってきた。マイ手形がたくさん返ってくると、私は嬉しいのかな」

「遊んで暮らすということの本質は、他の人に、自分のためにタダ働きさせるってことだよ。その人が利子として払った20万円分は、マイのためにタダ働きしたってことだ」

「なるほど……。でも、こんな条件で納得してくれるのかな」

「弱気だね。君がお金を作ってるんだから、誰も君には逆らえないよ」

「そっか。でもさぁ、手形と手形を交換してるだけなのに、片方にだけ利子がつくのはおかしいって思われないかな?逆らえないとしても、恨まれるのはイヤだよ」

「そうだね。手形と手形の交換というのは、債務と債務を交換してるということだから、片方の債務にだけ利子がつくのは本来おかしな話だ。こういうことをごまかすには、経済学者を使えばいいよ。経済学者にマイ手形を渡して、利子を正当化する理論を作らせればいい」

「そんなこと、やってくれるかな」

「だから、君に逆らえる人は誰もいないんだってば」

「そうかー。じゃあ、安心して遊んで暮らせるわけね」

「そういうこと」

「で、こういう手形の通貨を使ってる村って実際どこにあるの?」

「さあ……。結果として出来たこの村に似た社会のことなら知ってるけどね」

通説とは違うお金の起源 (by Heske van Doornen)

今回の記事は、Heske van Doornen という人の書いた The History of Money: Not What You Think というブログ記事を和訳したものです。

とても分かりやすい文章で、お金がどのようにして出来たのかについて、新たな視点を与えてくれます。

誤訳等ありましたらコメントなどで教えてください。

 


 

私たちのほとんどは、どのようにしてお金が出来たのかについて、ある考えを持っています。それはこんな具合です。

 人々はモノを他のモノと交換したかった。

 しかし、調整することが難しかった。

 そこで、彼らはモノをお金と交換し、そしてお金をモノを交換することを始めた。

これは、お金が交換の媒介物であるということです。

素晴らしい、そして単純な物語です。

問題は、これが真実ではないかも知れないということ。

私たちはお金を完全に間違って理解しているのかも知れません。

 

この物語には仮定があります。

まず最初に市場があり、その次に、市場をより良く機能させるためにお金が導入された、という仮定です。

しかし、この話を信じることは難しい、という人々がいます。

貨幣国定説(訳注:この文章で説明しているようなお金についての考え方)を教える学校に同意する人々は、これとは異なる歴史を示します。

彼らは、お金は市場で使われる前に、原始的な刑事司法制度の中で使用されたと言います。

お金は負債の記録として始まり、そして今もなお、負債の記録です。

それは、ある人が別の人に何を負っている(借りている)のかを、見失わないようにする方法なのです。

この考え方を支持する人類学的な証拠があります。

イニス(Innes)の研究、そしてレイ(Wray)によれば、お金の起源は以下のようなものです。

 

市場が出来る前の封建的な社会では通常、共同体の中で正義を維持するためのシステムがありました。

誰かが罪を犯した場合、権威(お上)(以下、王と呼びます)は、罪人は犠牲者に罰金を負うと決定するでしょう。

罰金は罪によって、雌牛1頭だったり、羊1匹だったり、鶏3羽だったりしました。

その雌牛が提供されるまで、罪人は犠牲者に対し債務があることになります。

王は罪人の未済の債務を記録するでしょう。

 

このシステムは時間とともに変わりました。

犠牲者に罰金を払うのではなく、罪人は、王に罰金を払うことを命じられました。

このようにして、資源は王の元に移動されていました。王は共同体の利益のために、資源の使用を全体として調整することができます。

これは王、そして社会の発展に役立ちました。

しかし、あちこちの罪人から来る資源の量は、あまり多くありませんでした。

王国により多くの資源を引き出すため、システムを拡張しなければなりませんでした。

 

システムを拡張するために、王は、彼自身の負債の記録を作成しました。

これは“王の借用証書”と呼ばれる紙切れだと考えてください。

次に、王は市民のところに行き、王が望む資源を王に与えることを要求しました。

もし市民が王に彼らの雌牛を与えれば、王は市民に彼の“王の借用証書”を与えるのです。

ここで、雌牛は1枚の紙切れより有用に見えますから、市民がこれに同意することは馬鹿げているように見えます。

しかし、王は解決策を考えました。

誰でも彼の“王の借用証書”を欲しがることを確実にするために、彼はその使い道を作りました。

 

王は、すべての市民が時々、王国に協力を申し出なければならないことを宣言したのです。

それぞれの市民は大いに困ったでしょう。もし彼らが、王がまだ彼らに借りがあることを示した小さな紙切れを提供できれば良いのですが。

その場合には、王はその市民を放免し、王はもはや彼に借りがなくなります。

その市民は自由の身となり、次回も安全であることを確実にするために、より多くの“王の借用証書”を獲得するでしょう。

このようにして、全ての市民は面倒なことを避けるために“王の借用証書”を必要としたのです。

こうして、“王の借用証書”は広く受け取られるようになり、そしてその結果として、有用な交換の媒介物となったのです。

これが市場の拡大をもたらしました。

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これと同じパターンを、より最近の歴史の中に見いだすことができます。

マシュー・フォーステーター(Matthew Forstater)とファーリィ・グルッブ(Farley Grubb)は、ヨーロッパの植民者が新世界に着いた時、彼らが地元住民を働かせたかったことを知ります。

しかし、彼らが地元住民に賃金のために働くよう呼びかけた時、硬貨を見たことが無かった地元住民には、意味が理解できませんでした。

そこで、ヨーロッパ人は次のことを決めました。全ての小屋(訳注:地元住民の家)は、面倒なことを避けるためには、彼らにある量の硬貨を時々払わなければならない、と。

すると、権威に税金を払えることを確実にするには、賃金のために働くことは良い考えのように思えたのです。

 

その時から、それほど多くは変わっていません。

お金は今でも、負債の記録、あるいは借用証書(IOU)として理解することができます。

米国では、私たちはドルを持っています。

ドルは我々の世界で王にあたるもの、すなわち政府によって作成されます。

私たちは、ドルを“米政府の借用証書”という紙切れだと理解することができます。

ちょうど私たちの話に出てくる王が資源に対する支払いに“王の借用証書”を使うように、米国政府は市民が提供するモノに対する支払いにドルを使うのです。

雌牛ではなく、米国の市民達は道路を提供し、報酬として政府からドルを受け取るかもしれません。

これは、今や彼らは道路を作ったので、政府は彼らに借りがあるということを意味します。

これは彼ら市民にとって良いことです。なぜなら、納税期日になった時、それこそが彼らが必要とするものだからです。

彼らは政府に彼らのドル(それは政府が彼らにまだ借りがあることを示す)を提供します。

そしてそれと引き替えに、政府は彼らを刑務所に入れないのです。

 

文とイラスト: Heske van Doornen