本記事は以下の記事の付録です。
政府による再分配
2つ目の非生産分配は政府による再分配です。
私たちには生存権がありますから、様々な理由で働けない人でも生活できるように、生産物を分配する必要がありますよね。
また、病気や怪我をした人が治療できるように、医療サービスという生産物も分配しなければなりません。*1
生活保護や公的年金、公的医療保険などの給付(で買われる生産物)が政府による再分配に当たりますが、これらについては正しく利用されていれば問題ないですよね。*2
ざっくり言えば、税金や社会保険料を払った分だけ払った人の取り分が減り、その取り分が再分配される形になります。
これを搾取と呼んで非難する必要はないでしょう。
(ただし、サラリーマンの税負担率が法人を持っている人や投資家などより重いことに着目して「搾取されている」と言うことは出来ます。)
貯金の取り崩しによる非生産分配
3つ目の非生産分配は、貯金の取り崩しによる生産物の分配です。
たとえば5年前に生産物をプールに入れて得たお金を貯金しておき、今年取り崩して生産物の購入に充てたとしましょう。
そうすると、今年の経済に限って見れば、この人はプールに生産物を入れずに生産物を取った、つまり非生産分配を得たことになります。
これによって今年の経済では生産物が少し足りなくなる(他の人の取り分が減る)でしょう。
しかし、5年前の経済ではこの人の貯金によって(生産物を取らなかった分だけ)生産物が少し余った(他の人の取り分が増えた)はずです。
要するに、貯金という行為はその分だけ生産物を余らせ、逆に貯金の取り崩しという行為はその分だけ生産物を足りなくするわけです。
結局バランスの問題ですね。
今年の経済に着目した時、貯金を増やした人の増加額の合計と、貯金を取り崩した人の取り崩し額の合計が同じぐらいであれば、これらの行為は労働者の取り分にほとんど影響しません。
貯金の増加総額と取り崩し総額が同程度というのは、それほど無茶な仮定ではないでしょう。
借金による非生産分配
4つ目の非生産分配は、借金をして生産物を買うという分配です。
生産物をプールに入れなくても、お金を借りればそれでプールから生産物を取り出すことができ、これが非生産分配になります。
その分だけ他の人への分配が少なくなるわけですが、借金をする人がいる一方で借金の返済をしている人もいるはずです。
返済をする人は生産物をプールに入れて得たお金を(生産物を取るのに使わずに)返済に回すわけですから、その分だけ他の人への分配が多くなります。
これもやはりバランスの問題であり、今年借金をした人の借り入れ総額と今年返済した人の返済総額*3が同程度であれば分配に影響しないことになります。
設備投資について
企業による設備投資も生産物プールの収支(生産物の流入量・流出量)に影響します。
たとえばある企業が漁船を発注して作らせ、年末にようやく完成したとしましょう。
そうすると、この漁船を作るために多くの労働がプールに入れられましたが、そのリターンとしての魚という生産物はこの年には入ってこないわけです。
よって消費者に分配する生産物は減ってしまいます。
その代わり、来年から10~20年間ぐらいはこの漁船が(人間の労働と協力しながら)魚をプールに入れてくれます。
つまり、設備投資をするとその設備が長期間にわたって生産物をプールに入れてくれる代わりに、それを作った時には生産物(労働)を一度に持って行ってしまうということです。
設備投資をすれば今年の分配が減ってしまう、それは確かです。
しかし、私たちの社会は過去にも営々と設備投資をしてきたはずであり、その数々の設備たちは今年の生産物プールに生産物を入れてくれているはずです。
今ある設備が今年もたらした生産物の総量と、今年作った設備の総量が同程度であれば、設備投資は分配に影響しません。*4
在庫投資について
在庫投資も生産物プールの収支に影響します。
たとえばある店が今年作られたお酒を仕入れて販売し、年末に残った在庫が100本あったとしましょう。
するとこの100本のお酒は生産者によって今年プールに入れられ、それをこの店が受け取ったが、消費者には渡らなかったことになります。
したがってこの在庫の分だけ今年の分配が減ります。
しかしこの在庫は翌年の期初(1月1日)の在庫となって、翌年に分配されますよね。
この店の今年の期初にも、前年から引き継いだ在庫がいくらかあったはずです。
この在庫は前年に作られ、今年分配されたわけです。
結局のところ、経済全体で見て期初の在庫の総量と期末の在庫の総量が同程度であれば、在庫投資は分配に影響しません。
貿易について
ここまでの考察では貿易について考えていませんでした。
貿易、すなわち輸出や輸入について考えたらどうなるでしょうか。
生産物プールの概念で考えると、輸出はある国の生産物プールから生産物の一部を出して外国のプールに回すということです。
逆に輸入は、外国のプールから生産物の一部を出してもらって自国のプールに入れるということです。
つまり、輸出すると自国内で分配する生産物は減り、輸入すると増えます。
よって、輸出する生産物の総量と輸入する生産物の総量が同程度なら、国内での分配に影響しません。
貿易による搾取
しかしここで注意すべきことがあります。
輸出する生産物の総量と輸入する生産物の総量が同程度であることと、輸出総額と輸入総額が同程度であることとは、同じではないということです。
先進国と後進国の間で貿易をしていて輸出総額と輸入総額が均衡している場合、以下の図のような状況になっています。
後進国側では、輸出した生産物の量よりも少ない量しか輸入できないのです。
なぜこんなことになるかと言うと、農産物や鉱物資源の量をドルで計測する時には生産者価格(に近い評価方法)で評価しているのに対し、工業製品の量をドルで計測する時には最終消費者価格(に近い評価方法)で評価しているからです。
ここには一国の経済の中で労働者が資本家に搾取されるのと同様の構図があります。
単に自由貿易をしているだけで、先進国は後進国から搾取できるのです。*5
もし可能なら、後進国は先進国との貿易など止めた方がいいでしょう。
国内に飢餓があるような状況で工業製品など買ってる場合ではありませんし、コーヒー豆やカカオを作るより国民が食べる食料を作るべきです。
まぁ、そんなことは先進国側(と後進国の富裕層)が許さないのですが。