経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

生産せよ、さもなくば搾取せよ

前回のあらすじ》

機械に仕事を奪われたA太は、再就職もできず起業もうまくいかなかった。

どうすればいい?

whatsmoney.hateblo.jp

 

「仕事につけない、自分で起業もできない。そういう状況になったらマイはどうする?」

「んー、生活保護をもらうとか」

「それはあるね。うまく受給できればいいんだけど、健康なら嫌な仕事でも我慢して働けと言われるだろうね」

「ガーン」

「職につけず貯金も無くなった。頼れる人もいない、お金も借りられないとしたら、どうする?」

「ううう……。もう、万引きでもするしか……」

「そうだね。万引きに限らず、犯罪に手を染めるというのは選択肢の一つとしてあるよね」

「あるんだ」

「空き巣狙いをするとか、寸借詐欺をするとか、あるいは振り込め詐欺のグループに入って出し子の仕事をするとかね」

出し子って?」

「振り込ませたお金をATMで引き出す人のことだよ」

「へぇ」

「実はA太にも、悪い先輩から詐欺グループに入って出し子の仕事をしないかという誘いがあったんだ」

「そうなの。で、入ったの?」

「A太は悩んだけど、この話は断ることにした」

「えらいわね。でも、どうするの?」

「同じころ、B子という友人から一緒に仕事をしないかと誘われたんだ。A太はこっちの話に乗ることにした」

「へー。そっちは犯罪じゃないわけね?」

「一応ね」

「ふーん。どんな仕事?」

「10万円の英会話教材を、40万円で売る仕事だよ」

「えっ……。詐欺じゃん」

「別に詐欺じゃないよ。買う人が40万円という価格に納得して買うなら、詐欺でもなんでもない」

「そうなの?」

「安く買って高く売るのはビジネスの基本だよ」

「そうかも知れないけど……。どうやって10万円のものを40万円で売るのよ」

「A太とB子で、電話帳や名簿を見て片っ端から電話をかける。英会話に興味がある人の名簿があれば効率的だね」

「ほう。それで?」

「なんだかんだと理由をつけて、喫茶店などで会う約束をとりつける。テレアポってやつだ」

「ふむ」

「その人が喫茶店に来たら、この教材がいかに素晴らしいものなのかを二人で説明して、40万円で買う契約をしてくれるように説得する」

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「そんなに上手くいくかなぁ」

「十人の見込み客と会って説得すれば、一人くらいは契約してくれるかも知れないよ」

「うーん」

「もし、買ってくれる人が一人いたら、ざっくり30万円の利益が出るよね」

「そりゃそうね」

「この時、経済学的にはGDPが30万円分だけ増大してしまう」

「ふーん。どういうこと?」

「10万円で仕入れたモノを40万円で売ると、30万円分の付加価値を生産したことになっちゃうんだよ」

「良く分からないけど、そういうもの?」

「うん。でも、教材それ自体の価値は増えてないよね」

「うーん……」

「40万円で売れても、教材それ自体は何も変わらない。4倍分かりやすくなるわけでも、4倍のスピードで学べるようになるわけでもない」

「そうね」

「A太とB子は、このビジネスによって何も生産していない。これは搾取なんだ」

「うーん……。でも、買った人にとってその教材がまさに欲しかったもので、A太とB子がいなければ出会えなかったのかも知れないじゃない。だとすれば、欲しかった教材に出会うというサービスをA太たちが生産したんじゃないの?」

「たしかにね。でも、そのサービスに30万円の価値があると思う?」

「あー……」

「欲しいモノがある消費者と、売りたいモノがある企業を結びつけるマッチングサービスがあったとしよう。このサービスでまさに欲しい英会話の教材に出会えた人は、手数料をどれぐらい払ってくれるだろうか」

「まぁ、5000円とか、多くても1万円ね」

「1万円だとすれば、A太たちが生産した『欲しかった教材に出会うサービス』も、1万円の価値だってことになる」

「ふーむ。残りの29万円は搾取だってわけね」

「そういうこと。こんな風に、失業した人が普通に再就職できなくて、自分で生産することも出来ないとなると、B子のように搾取ビジネスを自ら始めたり、A太のように搾取ビジネスで働くことになるんだよ」

「世の中に犯罪者が増えちゃうわけね……」

「いやいや、A太が悪い先輩の詐欺グループに入っていればそうなるんだけど、このビジネスは合法だからね?」

「いやいや、10万円のモノを40万円で売るのは明らかにぼったくりでしょ」

「ぼったくりなんだけど、買い手が40万円という価格に納得していて、売り手もウソをついたり買うことを強要したりしていなければ、違法じゃないよ」

「うーん、そうなのかな……」

「そして、このビジネスが合法である限り、30万円分の『付加価値の生産』は、GDPにカウントされてしまう*1

GDPってなに?」

国内総生産といって、国内でどれだけの付加価値が生産されたかの合計だよ」

「良く分からないけど」

GDPというのは要するに、一国の経済の規模を計る数字なんだ」

「ほう」

GDPには3つの側面がある。生産面、分配面、支出面の3つだ」

「ふーん」

「生産面はさっき言った通り。10万円で仕入れたモノを40万円で売ると、30万円分の付加価値を生産したことになる。だからGDPが30万円分だけ増える」

「ほう」

「分配面で言うと、利益の30万円を山分けするならA太とB子にそれぞれ15万円の所得が発生する。所得の合計30万円分だけGDPが増える」

「ほうほう」

「支出面で言うと、お客さんが教材を10万円で買った場合と40万円で買った場合とを比べると、支出が30万円分増えている。だからGDPが30万円分だけ増えるんだ」

「ふーん。そうすると、全部でGDPは30万円×3で90万円増えるってこと?」

「いや、GDPの増加は30万円分だけだよ。この30万円分のGDPの増加を3つの側面から見ているってこと」

「あー、そういうことか。なるほど」

「生産が増えれば当然GDPが増えるんだけど、搾取が増えてもGDPは増えるんだよ」

「はつみみ~」

GDPという経済の規模を計る物差しは、生産と搾取を区別しないってことだね」

「うーん……。それって、なんというか、大丈夫なの?」

「あんまり大丈夫じゃないね。生産物の量が去年と今年で同じだったとしても、今年は搾取が増えていたら『経済成長した』ってことになっちゃうからね」

「それは問題ね……」

GDPのうち、どれだけが搾取で、どれだけが本当の生産なのかが分かればいいんだけどね。それは難しいかも知れない」

「ふーむ……。えっと、じゃあ、世の中にいろいろあるビジネスは、生産するビジネスと搾取するビジネスに分けられるってこと?」

「うーん。そういう風に単純化してもいいけど、実際はちょっと違うかな」

「どう違うの?」

「あらゆるビジネスは、ある程度は本当の生産をしているとしても、残りの部分では搾取もしているんだよ。それが営利目的のビジネスである限りはね」

「ふーむ」

「さっき言った例だと、本当に生産されたのは1万円分のマッチングサービスだけ*2。残りの29万円分が搾取だね。このビジネスは搾取の割合が大きい」

「なるほど。搾取の割合が大きいビジネスと小さいビジネスがあるってことか」

「そうだね。まぁ、泥棒とか恐喝とかなら100%搾取だけどね」

「そうかー……。ねぇ、もしかして……。搾取って、無い方がいいんじゃないの?」

「もしかしなくても、無い方がいいよね。A太とB子が一生懸命がんばって搾取ビジネスをすることは、社会にとって有害だと言える」

「搾取って、無くせないの?」

「それは難しいね。A太とB子だって、別に悪気があってこういうビジネスをしているわけじゃない。そうするより他に無いところまで追い詰められたのだから仕方ないよね」

「でも、安い給料でブラック労働をする選択肢もあったはずでしょ」

「そうした場合、その仕事につくはずだった人が雇用からはじき出されて搾取ビジネスを始めることになるだろう」

「うーん、全体としては変わらないってことか……。でも、A太たちが悪くないんだとしたら、誰が悪いのよ」

「それは、社会の仕組みが悪いとしか言いようがないね」

「社会の仕組み?」

「資本主義社会では『儲けること』が経済を回す原動力になっている。『儲けること』と『搾取』は同義だから、どうしたって社会には搾取がはびこることになるね」

「『儲けること』と『搾取』が同義……? あまり納得いかないけど、そうなんだとしたら、搾取を無くすためには……?」

「社会の仕組みを根本から変えるしかないね」

「うーむ……」

*1:より正確に言うなら、GDPの推計に用いられる基礎統計がこの事業活動を捕捉していれば、ということになるでしょうか。

*2:もちろん、押し売りであれば何も生産されていません。