「今回は、前回のたとえ話の続きを考えてみよう」
「たとえ話って、熊さん八さんの?」
「そうそう。おさらいをしてみると……
- 熊さん、八さんの二人だけが無人島で暮らしている
- 熊さんと八さんはお金を10カイずつ持っている
- 熊さんは一日に4匹の魚を捕り、うち2匹を2カイで八さんに売る
- 八さんは一日に4つの果物を採り、うち2つを2カイで熊さんに売る
- ある日から、八さんは魚を買う量を一日1匹に節約して貯金を始めた
こんな感じだったね」
「ふむ。一日ごとに、八さんは1カイずつお金を増やして、熊さんは1カイずつお金を減らすのよね」
「うん。そして、10日後に熊さんのお金が無くなったところで、八さんは熊さんに10カイを貸してあげることにした」
「10日で1割の金利だったわね」
「そうだね。この条件で熊さんが10カイを借り、同じことを繰り返すとどうなるだろうか」
「うーん。同じことを繰り返すなら、また10日経ったら熊さんのお金が無くなるわよね」
「うん。だから、熊さんはまた八さんから10カイ借りることになる」
「ふむ」
「それに、最初の借金の金利を1カイ払わないといけない」
「そうね。じゃあ、10カイ借りてすぐ9カイになっちゃうってこと?」
「熊さんの手持ちが10カイになるように貸すことにしよう。つまりこの時点では、11カイを貸し付けて金利を1カイ受け取る」
「ふむふむ。さらに10日経ったら?」
「やはり10日後には熊さんのお金が無くなる。この時の債務総額は21カイだから、支払う金利は2.1カイ。八さんは熊さんに12.1カイを貸し付けて金利を2.1カイ受け取る」
「うーん。借金がどんどん増えちゃうわね」
「そうだね。これをずっと続けていると、最初に八さんが節約を初めてから170日目には、借金の総額が400カイを越える」
「ひえー! 実物のお金は20カイしか無いのに?」
「返済はされずに、繰り返し貸してるからねぇ。仮に金利が無くても、400日目には総額400カイになるよね」
「そうかぁ」
「400日が170日に縮まったのは、金利の分も元本に組み込まれたからだね。借金の総額が加速度的に増えたわけだ」
「ふーむ。この後はどうするの?また同じことの繰り返し?」
「いや、八さんはこれ以降、熊さんに追加でお金を貸すのを止める」
「そうなの? そしたら熊さんは金利を払えなくなると思うけど」
「180日目に熊さんが払わなきゃいけない金利は40カイになるよね。でも、熊さんの手元にはお金は無い」
「うん」
「八さんは熊さんにこう言うんだ。『40カイの金利は一日4カイずつ、10日間に分けて払ってくれればいいよ』とね」
「そんなこと言っても、八さんは1カイも持ってないんでしょ?」
「うん。さらにこう言うんだよ。『魚2匹と果物2個を持って来てくれれば4カイで買うから、それで金利を払ってくれればいいよ』と」
「ええ? 果物を取るのは八さんの仕事だったんじゃないの?」
「八さんはもう働かないよ。金利だけで生活できるようになったからね」
「あー! そういうこと? じゃあ、熊さんは魚4匹を捕った上に、果物4個も取らなきゃいけないわけ?」
「うん。熊さんは毎日魚を捕って、さらに苦手な木登りをして果物も取らなきゃいけなくなる」
「はー。大変ねぇ」
「八さんは、何もしなくても食べ物が手に入る生活を手に入れた。しかもこの生活は一生続く」
「一生? そうなの?」
「だって、熊さんは400カイの元本を返せてないからね。一日4カイの金利を、魚と果物でずっと払い続けるしかない」
「熊さんは一生、自分の食べ物だけじゃなくて、八さんの分も取るために働き続けるわけか……」
「そういうこと。さて、八さんは一生働かずに生きていけるようになったんだけど、180日間の節約と貯金はそれほどまでに素晴らしいことだったんだろうか」
「うーん……」
「八さんがやったのはこういうことだ
- 毎日魚を食べる量を2匹から1匹に減らす
- 1によって熊さんの所得を減らす
- 2によって熊さんのお金が無くなる状況を作り出す
- 熊さんがどうしても必要とするお金を、金利をつけて貸す
- 上記を繰り返す
一生働かずに済むことを正当化できるほど、八さんの180日間は尊いものだったのだろうか?」
「うーむ……。たしかに、何かおかしいような……」
「何かがおかしいのだとしたら、何がおかしいんだと思う?」
「んー……、金利が高すぎるとか?」
「確かにそれはあるね。でも、金利が低かったとしても時間をかければ同じ状態になるわけだから、金利の高さは本質的な問題じゃないよね*1」
「だとすると、やっぱり金利を取ること自体がおかしいのかな……」
「そうかも知れないね。だからこそ、聖書は金利を禁じたのかも知れない」
「ふむ」
「でも仮に、お金が一方に貯まってもう一方で不足した場合には金利付きで貸し出されることが避けられないとしたら、どうだろう」
「どうって?」
「お金が一方に貯まること自体を避ける方法は無いだろうか」
「うーん……。熊さんも、八さんと同じように節約すれば良かったんじゃない?」
「そうだね。熊さんも果物を食べる量を2個から1個に減らすという節約をすれば、トントンになってお金がどちらかに貯まることは無くなる」
「八さんも熊さんも、節約してるのに、貯金はできないのかー……」
「その通り。全員が節約して貯金しようとすると、全員の所得が下がって、結局だれも貯金ができないんだよね」
「はー」
「節約をして貯金ができるのは、節約をしない人が居るからなんだよ」
「なるほど」
「さて、八さんも熊さんも節約してしまうと、単純に経済が縮んだだけになってしまう。誰も得しないよね」
「そうね」
「この事態を避けるにはどうしたらいいだろうか」
「うーん。こんなことになるぐらいなら、物々交換してた方が良かったんじゃないの?」
「その通り。お金なんか無くしてしまって、熊さんの魚2匹と八さんの果物2個を交換していれば、節約しても貯金なんてできない」
「そうね」
「我々の社会でも、お金を無くしてみんなで物々交換をしていれば、誰も貯金することはできない。そうすれば、金利付きの貸し付けも起きないんじゃないかな」
「お金を無くすなんてムリでしょ」
「そうだよね。じゃあ、お金は無くさないまま、貯金をしたいと思わないように出来ないだろうか」
「そんなことできる?」
「物々交換の場合、貯金ができないのはなぜだろう」
「そりゃ、魚を貯めたって腐っちゃうからでしょ」
「そうだね。だとすると、お金も使わずにとっておくと腐るようになっていれば、貯金したいと思わないんじゃないかな」
「ええっ? お金は腐らないからいいんじゃない!」
「うん。みんなそう思ってるし、教科書にも書いてあるよね。お金の役割の一つとして、『価値の貯蔵手段』なんて書いてある」
「そうでしょ」
「でも、今回の話をじっくり考えてみると、お金をとっておいても価値が減らないのはお金の『利点』というよりむしろ『欠点』なんじゃないかと思えてこないかな?」
「うーむ……」
「少なくとも、『時間が経ってもお金の価値が減らないことは正しいことなのか?』というような“問い”を立てることはできるよね」
「ふーむ」
「そして、『お金の価値は時間とともに減っていくべきだ』と主張している人は、世の中に結構いるんだよ*2」
「そうなのかー」