「日本政府の借金が1000兆円を超えたらしいよ」
「へー」
「あれ、興味ない?」
「っていうか、金額が大きすぎて良く分かんない」
「確かにね。国民一人あたりにすると、806万円だってさ」
「えっ、私も一人で806万円の借金をしてることになるの?」
「単純に割り算すればそうなるね」
「ふーん……。ということは、そうではない考え方もあるの?」
「うん。これは政府の借金であって、国民は貸してる側だから、国民の借金ではないと言っている人もいる」
「ははぁ。実際、そうなの?」
「国民が銀行に預金しているお金で銀行が国債を買ってるからね。そうとも言えるね」
「なーんだ、良かった。私、政府に貸してる側なのね」
「いや、そんなに単純な話じゃないよ」
「なんで?」
「政府というのは、国民全員を代表して国民のお金を使う機関だからね。政府がお金を使うということは、国民のお金を使うということだよ」
「あー、それは分かる。倒産した会社を国が救済する時、税金を投入するって言うもんね。私が払った税金が使われてるってことでしょ」
「そうそう」
「んで?」
「政府の借金にも金利がつくよね。その金利はもちろん政府が払うんだけど、負担してるのは国民なんだよ」
「あー、なるほど。金利を払ってるのは国民だから国民の借金だとも言えるわけね」
「その通り」
「で、結局どっちなの?」
「政府の借金は国民にとって資産なのか、負債なのか。金持ち父さんの定義で考えてみよう」
「金持ち父さん?」
「ロバート・キヨサキという人がお金について書いた『金持ち父さん貧乏父さん』という本があるんだよ」
「へー」
「この本の中で金持ち父さんはこう言っている。あなたのポケットにお金を入れてくれるものが資産であり、あなたのポケットからお金を取っていくものが負債だと」
「うーん……たとえば?」
「たとえば家だね。自分が住む家をローンで買ったとすると、毎月お金がポケットから出て行くから、その家は負債ということになる」
「ふむ」
「しかし、買った家を人に貸して家賃を取っていて、ローンや色々な経費を払っても毎月お金がポケットに入ってくるなら、その家は資産ということだ」
「なるほどねー。じゃあ、政府の借金で考えると……どうなるの?」
「まず、国民のポケットに入ってくる分。国民は銀行に1000兆円を預金していて、銀行がその預金で国債を買っていると考える」
「ふむ」
「普通預金の金利が多めに見積もって0.1%だとすると、毎年1兆円が国民のポケットに入ってくるね」
「ふむふむ」
「次に国民のポケットから出て行く分。政府は借金の金利として1年にどれくらい支払っているかと言うと、平成25年度で9.9兆円。約10兆円だね」
「ほほう。ということは、差し引き9兆円が、国民のポケットから毎年出ていってると」
「そういうこと。つまり……」
「政府の借金は、国民にとって負債と言える!」
「正解。まぁ、1000兆円の全部が銀行預金からの国債購入ではないから数字は不正確だけどね。大筋はそういうことだよ」
「なるほどねー。ところで、国民のポケットから出た9兆円はどこに行くの?」
「銀行家のポケットに入る」
「えっ……なんかズルくない?」
「ズルいよ?」
「ズルいのか」
「それが銀行の商売ってものだよ」