あるところに村人百人の村があり、村人たちは物々交換をして暮らしていました。
その村にある日、アタッシュケースを持ったある紳士がやってきて、お金の概念や便利さを説明し、一人十万円の現金を全員に貸し付けました。
総額は一千万円、金利は年5%です。
十年後にまた来ると言い残して紳士は去りました。
そして十年後。
紳士が求める返済は一人15万円、総額は1500万円ですが、村には1000万円しかありません。
返済できない村人が大勢いました。
返済できなった人は、担保にしていた金貨や宝石、土地などの実物資産を紳士に取られてしまいました。
さて、紳士は最初の一千万円をどうやって調達したのでしょうか。
実はこの一千万円は紳士の手作り、要するに偽札でした。
ただし、既にある紙幣をマネして作った偽札ではなく、この紳士のオリジナル紙幣です。
紳士は偽札を作って村に流通させて回収し、金利と称して実物資産を巻き上げる詐欺師だったということ。
偽札を作るコストが総額2万円だったとして、受け取ったレンタル料が十年で500万円分の実物資産です。
これは明らかに詐欺ですね。
紳士は偽札を村で使いませんでしたので、これは「偽札を作って使った」という詐欺ではありません。
偽札とは言え、皆が信じていれば便利な取引の道具として使えますから、レンタル料が例えば十年で総額5万円だったら文句を言う人はいないでしょう。
紙切れを使って500万円分もの実物資産を取ったから詐欺なのです。
ところで、これと同じことを預金通貨でやってみるとどうなるでしょうか?
紳士は村人百人分の通帳を作り、それぞれに100,000という数字を書き入れます。
紳士は村人に、お金を払う人はその分だけ自分の通帳の数字を減らすように、受け取る人は同じ分だけ自分の通帳の数字を増やすように言います。
通帳に書いてある数字が使えるお金だということです。
紳士は通帳に数字を書き入れるだけでお金を作ってしまいました。
十年後に1500万円の返済を求めて500万円分の実物資産を取るところは同じです。
さて、ここで現金(偽札)を使った詐欺師の話に戻ります。
偽札を自分で手作りするのは安上がりとは言え、かなりの手間でした。
見た目もイマイチです。
この頃、この手の詐欺をやりたいという人が大勢現れたため、詐欺用の偽札を専門に作る業者が登場しました。
この業者が作る偽札は、偉人の肖像画が印刷され威厳に満ちた雰囲気を持っており、より村人を騙しやすかったため、詐欺師達は皆この業者から偽札を調達しました。
通貨が統一されたため、ある村のお金を他の村でも使えるという副作用もありました。
この業者は、詐欺師に偽札をレンタルする時のレンタル料をどれぐらいにするでしょうか。
一千万円分を供給すると、詐欺師は年間50万円(相当の実物資産)を儲けられます。
少し控え目に、そのうちの10万円分を毎年もらうことにしましょう。
原価は2万円なのでそれでも大儲けです。
レンタル料を安めに設定したこともあり、この偽札は爆発的に普及しました。
他の業者が似たような偽札を作って詐欺師達に供給しようと思っても全く付け入るスキがありません。
偽札供給の市場は完全にこの業者が独占することになりました。
市場を独占したこの業者はレンタル料を2倍に値上げしました。
儲けの減った詐欺師達は不満でしたが、文句を言うこともできません。
何とか儲けを増やせないかと詐欺師達は考え、ある者が良い方法を思いつきました。
先ほど話に出た預金通帳方式を組み合わせるのです。
貸し出しの時、預金通帳に数字を書くことで事実上お金(偽札)を作ることが出来ます。
この方法なら業者に頼らず自分で偽札を調達できるわけです。
通帳の数字がお金だと村人に信じさせるのは少し手間でしたが、引き出しに対して実際に偽札を渡せば大丈夫でした。
この方法だと、実際に調達した偽札の数倍の金額を預金通帳で作り出しても特に問題が起きないことが分かってきました。
詐欺師達は皆この方法を使い、偽札調達のコストは大きく削減されました。
通帳のみで騙す手口は流行りませんでしたが、組み合せると効果的でした。
ここでちょっとした問題が発生します。
村人達が使っているお金が実は偽札なのではないかという噂が広まってきたのです。
実際に偽札なのですが。
対応をせまられた業者は国王に接近しました。
この偽札を国として公式に通貨であると認めるように要求したのです。
見返りはこの通貨を好きなだけ国王に融通するという約束です。
財政難に悩む国王にとって、この申し出は渡りに船でした。
国王はこの通貨を法貨だと宣言し、税金の徴収や役人への給料の支払いもこの通貨で行うことにしました。
偽札は晴れて本物のお金になったのです。
詐欺師達はもはや犯罪者ではなくなりました。
銀行を名乗って堂々と今までと同じ商売が出来るようになったのです。
偽札作りの業者も同様に、中央銀行を名乗って堂々と今までと同じ商売をするようになりましたとさ。
めでたしめでたし。