「前々回、偽札を作ろうって話をしたのは覚えてる?」
「うん」
「今回は、偽の預金通貨を作ってみよう」
「ふーん、どういうこと?」
「子供のころ、こんなこと考えたことないかな。預金通帳の数字を書き換えて数字を増やして、引き出せないかなって」
「あー、あるあるw」
「それをやってみようって話だよ」
「えー、でも、通帳の数字を書き換えても銀行にはバレちゃうでしょ」
「そうだね。銀行のコンピュータに記録されてる数字が本物の残高だからね。通帳だけ書き換えても意味が無い」
「じゃあ、銀行のコンピュータの数字を書き換えるの?」
「そういうこと。銀行のコンピュータに侵入して、自分の口座の残高を増やすんだ」
「そんなこと出来るかな」
「難しいだろうけど、凄腕のハッカーに頼んで侵入できたと思ってよ」
「ふーむ。でも、口座の残高がいきなり増えたらバレちゃうんじゃない?」
「そうだね。単純に口座の残高を増やすだけだと、帳尻が合わなくなってバレるだろうね」
「ダメじゃん」
「うん。どうにかして帳尻を合わせなきゃダメだね」
「誰か他の人の口座残高を同じだけ減らせばいいんじゃない?」
「そうだね、それなら帳尻は合う。だけど、それだと単に他の人の預金を盗んだだけのことで、偽の預金を作ったことにはならないよね」
「そっか。じゃあどうするの?」
「帳尻が合わないのは、銀行のバランスシート上で負債だけ増えて資産が増えてないからなんだ」
「バランスシート???」
「銀行にとって預金というのは、引き出しを要求されたら現金を渡しますという約束であり、借金と同じことなんだ」
「ふーん」
「借金が百万円分増えたら、資産も百万円分増えないと、帳尻が合わない。だから、銀行にとっての資産を百万円分を増やしてやればいいんだ」
「そんなこと出来るの?」
「銀行にとっての主な資産は借用証書だからね。偽の借用証書を作ってやればいい」
「偽の書類を作って銀行の金庫にでも投げ入れるの?」
「ははは、コンピュータ上で誰かが借金をしたことにするだけだよw」
「ふーん。そうだとすると、その誰かから盗んだだけってことにならない?」
「その誰かは実在しない人物にしてもいいし、実在したとしても、銀行は本物の借用証書は持ってないから取り立てられないよ」
「じゃあ、銀行から盗んだことになるの?」
「いい質問だね。偽の預金通貨を作ったら誰が損をするのか?というのは難しい問題だ。それはまた別の機会に考えることにしよう」
「ふーむ。でもさぁ」
「なに?」
「偽札を作ったらその分お金が増えるというのは分かるよ。でも、偽の預金通貨を作ってもお金は増えてないんじゃないの?」
「いや、増えてるよ」
「だって、現金は増えてないじゃない」
「うーん、『預金通貨は本当にお金だと言えるのか?』を読み直してくれるかな」
「ふむ」
「まとめると、誰かにお金を貸したことにすると同時に誰か口座の残高を増やすと、偽の預金通貨を作り出すことができるということ」
「ふむふむ」
「これは銀行が普通にやってることと同じことなんだよ」
「えっ???」
「銀行に誰かが『お金を貸してくれ』と言ってきたら、その人から借用証書をもらって、その人の口座の残高を増やすんだ」
「ははぁ……」
「銀行は合法的に偽ガネ作りをしているということだよ」
「マジですか……」