経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

貨幣乗数に死を! by Simon Wren-Lewis

(以下の文章は、Simon Wren-Lewis という経済学者が書いた Kill the Money Multiplier! というブログ記事を和訳したものです。誤訳等ありましたらお知らせください)

 


貨幣乗数に死を!

 

学生と、未だに貨幣乗数を教えている人へ

 

ニック・ロウ(訳者注:カナダの経済学者)は、何人かのブロガーが「全ての主流派マクロ経済学者は貨幣乗数を信じていて、貸し付けが預金を作り出せることを理解していなかった」と考えていることに憤りを感じています。

一年生の教科書を読んでみろと彼は言っています。

事実、私がこのことについて話し合ったマクロ経済学者で、貨幣乗数が今日の金融政策に適切であると考えている人など一人もいませんでした。

また、私はニックが正しいと確信しています。良い一年生の教科書は、貨幣乗数について私たちに教えてくれるのと同様に、貸し付けが預金を作り出せることをあなたに教えてくれるのです。

しかしこのことは、マクロ経済学者にとってさらに厄介な問題を提起します。

なぜ貨幣乗数は未だに多くの学部生に教えられているのか?

なぜこれが未だに教科書に載っているのか?

 

1つの回答は、教科書がマクロ経済学の現実に追いつくのに時間がかかるということかも知れません。

しかし、もし中央銀行が20年か30年前に慣例的に貨幣乗数を使用していたならば、これは単なる弁解にすぎないでしょう。

1980年代の初めに、英国と米国でマネーサプライをコントロールしようとしていた時期があったのは事実です。しかし、この試みはすぐに放棄されました。

英国の場合、金融当局がマネーサプライをどうコントロールしようとしたかということと貨幣乗数とは全く関係がなかったのです。

したがって、一年生のマクロ経済の教科書への掲載を正当化することは出来ません。

 

別の回答は、貨幣乗数を掲載しても害が無いというものです。

それは通貨管理のための有り得るメカニズムの一つであり、学生にとって良い知的訓練であると。

ええと、良い知的訓練はより高度な教科書には適すかも知れません。しかし、それは二度とマクロ経済を勉強しないかも知れない学生にとって、貴重な時間の浪費です。

(そんな学生が実際どれくらいいるかについてはコメントしませんが)

しかし、私は害もあると考えます。

なぜなら貨幣乗数は、銀行が受動的であり、単に貯蓄を貸し付けによって投資に変換しているかのような印象を与えるからです。

もし貨幣乗数がそのまま教えられるなら、学生は一体全体何が起こっているのかと戸惑うことになります。

彼らは苦労して方程式を覚えて理解し、そして最後の1、2年で発見するのです。

中央銀行が明日は無いかのようにマネタリーベースを拡大してきており、マネーサプライはほとんど変わっていないことを!

(より小さなコストは、貨幣乗数が、私の見た限りほとんど実質の無いことについての議論を巻き起こしてしまうことです)

 

私は、なぜそれがまだ教科書にあるのか知っていると思います。

それは、LM曲線がまだ私たちが学生に教える基礎的なマクロ・モデルの一部だからです。

私たちはまだ一年生に、金融当局がマネーサプライを修正する世界を教えています。

そしてもし私たちがそう教えるなら、どのようにしてマネーサプライがコントロールできるのかについての良い小話が必要になるのです。

現在、ちょうど貨幣乗数の場合のように、良い教科書はテイラールールなどについて議論しながら、金融政策が実際どのように行われるのかについても話すでしょう。

しかし、私が今まで主張してきたことはここでも同様に当てはまります。

なぜ一年生はこのように時間を浪費し、しかもほぼ確実に混乱しなければならないのか?

 

私は以前にも、このブログや出版物でこのことについて文句を書いたことがあります。

(両方のケースで Brad DeLong の教科書に触れなかったことは私の怠慢でした。その教科書はLM曲線を強調していません)

私が受け取ったコメントは面白いものでした。

LM曲線を教えることへの唯一の弁護は、テイラールールのようなものが金融政策の行動主義に関するものであるにもかかわらず、もし金融政策が「客観的な力」による「自然な」方法で作用すれば何が起こるかを教えてくれるということです。

うーむ、これはLM曲線を教えないことの素晴らしい理由だと思います。

なぜならそれは自然で客観的な金融政策のようなものがあるという印象を与えるからです。

1980年代初めのマネタリストの実験中に周辺にいた人なら、マネーサプライの修正が自動的でも受動的でもないことを知っています。

 

これは私にとって得意な話題の一つですが、私はこれは非常に重要であると本当に思います。

経済学者になろうとしている多くの学生は、ひどい教えられ方をするのでマクロ経済学に対して関心を失います。

経済学者になろうとしない学生の中には、最終的に自分の国を統治する者もいるでしょう!

したがって、私たちは何を教えるかについて本当に関心を持つべきです。

ですからどうぞ、これを読んでいる、まだ貨幣乗数を教えている方は、より適切でより有用なことを教えることに時間を使えるかどうかについて考えてください。