「今回は、お金を増やす方法を説明しよう」
「お金を増やすって、利子のこと?」
「いや、今は利子のことは考えない。銀行の預金の話だよ」
「銀行に預けると増やせるってことでしょ?やっぱり利子の話じゃない」
「違う違う。仮に利子がゼロでも、お金は増やせるんだよ」
「どういうこと?」
「信用創造と言うんだけど、銀行が預金の受け入れと貸し出しを繰り返すと、お金が増えるんだ」
「えー……?預かったものを貸したって、全体としては変わらない気がするけど……」
「普通そう思うよね。お金をただグルグル回したって、増えたりしない。その通りだ」
「じゃあなんで増えるの?」
「グルグル回しても増えるはずのないお金を銀行はどうやって増やすのか。ショートコントで説明してみよう」
「……お、おう」
「お願いしまーす!」
「ショートコント、お金の作り方!」
(ウィーン)
銀行「いらっしゃいませ」
熊さん「おう。この1万円、預かってくんな」
銀行「かしこまりました。こちらが通帳になります」
熊さん「ああ、10,000と書いてあるな。じゃあ頼んだぞ」
銀行「ありがとうございました」
(ウィーン)
銀行「いらっしゃいませ」
八つぁん「ちわ。1万円貸してくれませんかね」
銀行(ちょうど今、金庫に1万円あるな……)「かしこまりました。借用証書にサインをお願いします」
八つぁん「はいよ」
銀行「では、1万円をお貸しします。どうぞ」
八つぁん「助かりますわー。では」
銀行「ありがとうございました」
(ウィーン)
銀行「いらっしゃいませ」
熊さん「おう。さっきの1万円、引き出してくんな」
銀行(まずい。今、金庫は空だ…)「どうしました?」
熊さん「どうしたじゃねぇよ。いいから出しなよ」
銀行「まぁまぁ、落ち着いて。何に使われるんです?」
熊さん「八つぁんが持ってる自転車を1万円で買うことにしたんだよ」
銀行「そうでしたか。それでしたら、お引き出しされる必要はございません」
熊さん「なんで」
銀行「当行の方で、熊さんの口座から八さんの口座にお振り込みという形で入金させて頂きますので」
熊さん「ふーん。でも現金を引き出して渡しても同じことだろう」
銀行「そうですが、現金は紛失や盗難の危険があります。その点お振り込みならそのような危険性はゼロ!安全・安心です!」
熊さん「そうかい?じゃあそれで頼むわ」
銀行「かしこまりました。では、熊さんの口座から八さんの口座に1万円振り込みますね。熊さんの預金額はゼロになります」
熊さん「おう、そうか。じゃあな」
銀行「ありがとうございました」
(ウィーン)
銀行「いらっしゃいませ」
八つぁん「ちわ」
銀行「ああ、八さん。熊さんから自転車代の1万円が振り込まれましたよ」
八つぁん「そうかい」
銀行「これで八さんは現金1万円と預金1万円の計2万円持ってますね」
八つぁん「そうだな。ところで、あと1万貸してくれないかい?」
銀行(今、金庫は空なんだよな……)「どうしました?」
八つぁん「熊さんの持ってるパソコンを買いたいんだ。3万円なら売るって」
銀行「そうでしたか。ではお貸ししましょう。借用証書にサインを」
八つぁん「はいよ。で、お金は?」
銀行「こちら、八さんの通帳です。1万円お貸ししましたので、残高が10,000から20,000になっております」
八つぁん「ああ、そう。じゃあ、早速その2万円を引き出してよ」
銀行「いえ、それには及びません。熊さんへの支払いは振り込みが安全・安心です」
八つぁん「そうなのかい?」
銀行「そうですよ。では、その1万円も一旦預金して下さい」
八つぁん「はいよ」
銀行「ありがとうございます。これで八さんの口座の残高は3万円になりました」
八つぁん「ああ」
銀行「この3万円を、熊さんの口座に振り込みますので」
八つぁん「そうかい」
銀行「手続きはおまかせください。……ところで八さん」
八つぁん「ん?」
銀行「お金借りませんか?1万円ほどお貸しできますが」
八つぁん・熊さん「「いい加減にしろ!」」
「「「どうもありがとうございましたー!」」」
「どう?」
「……どうって言われても……」
「現金は1万円しかないのに、最後にはお金が3万円になったでしょ」
「銀行が口八丁で上手くごまかしてるだけじゃない。詐欺みたい」
「確かにね。でも、八さんがパソコンを買って3万円払ったことは間違いない。そのうちの2万円は銀行からの借金だ」
「まぁ……そうかもね」
「お金が増えたということについては、納得してくれるかな?」
「……納得してあげないこともないわ」
「うん。ところで、この話の中のどこでお金が増えたか分かる?」
「うーん、2万円から3万円になったところなら分かるわ。八さんの通帳の数字を10,000から20,000にしたところでしょ」
「その通り!八さんに1万円を貸したことにして、通帳の数字を増やした時だ」
「……つまり、銀行は通帳の数字を増やすことでお金を作り出せると言いたいの?」
「大正解!」
「まっさかぁ~」
「実は、この増やした1万円分の預金は、銀行が作り出した仮想価値なんだ」
「仮想価値?ってことは、何か約束してるの?」
「そうだよ。銀行はこの預金という仮想価値を作る時、2つの約束をしている。なんだと思う?」
「うーん……引き出したいと言ったら現金を渡します、という約束?」
「その通り。冴えてるね」
「でもさっきのコントでは、引き出したいと言われても現金を出してなかったじゃない」
「そうだね。その点については、銀行がしたもう1つの約束が関係してくる」
「何?」
「預金それ自体がお金として使えますよ、という約束だよ」
「預金自体が……?」
「そう。自転車を買う時も、パソコンを買う時も、現金じゃなくて預金で買ってただろう」
「ふーむ……確かにそうね」
「預金自体がお金として使えれば、現金を引き出したいという要求自体が少なくなるんだ」
「だから、現金は少なくても大丈夫だってこと?」
「そういうこと」
「うーん……」