「でも、紙に何かを書いただけで価値が生まれるというのはなんか納得できないわ」
「ああ、そうだね。確かに、単に紙に何かを書いただけで仮想価値が生まれるわけじゃないよ」
「そうでしょ?」
「もうひとつ必要なものがあるんだけど、なんだと思う?」
「うーん……。少なくとも、子供には仮想価値?は作れないと思うんだけど…」
「いや、子供でも作れるよ」
「本当に?」
「君も作ったことがあるんじゃないかな。肩たたき券がそうだよ。あれは立派な仮想価値だ」
「あー、母の日に作ってプレゼントしたかも。確かに価値を作ったと言えないこともないわね」
「どうやって作った?紙に『肩たたき券』って書いて、あとは何をしたかな?」
「うーん、『渡されたら肩たたきする』って約束、をしたかな」
「それだよ!仮想価値を作るには『約束』が必要なんだ」
「あー、なるほど。商品券も、渡されたら引き換えに商品を渡すって約束してるわね」
「その通り。他には、お金を借りる時に書く借用書も仮想価値だよ。何を約束してるかな?」
「利子をつけてお金を返しますって約束ね」
「その通り!あと、株券なんかも仮想価値だよ」
「株かー。あれは何を約束してるのかな。渡されたらお金を返しますって約束?」
「うーん、ちょっと違うね。儲かったら配当金をあげます、って約束だよ」
「ふーん」
「まぁ、最近は紙の株券じゃなくなったりしてるけどね。余談だけど」
「へー。結局、紙に何かを書いて約束さえすれば、誰でも仮想価値を作れるってこと?」
「それもちょっと違うかな。たとえば、いつも嘘をついてばっかりの子供がいたとして、その子が作った肩たたき券には価値があると思う?」
「あー。その子、どうせ肩たたきなんかしないわね。無価値だわ」
「そうだよね。他にもたとえば、寸借詐欺を繰り返している男が『毎年3割の利益を出すビジネスを思いついた』と言って株券を発行したとして、その株券に価値があるかと言うと…?」
「その男、逃げるわね。株券は無価値ねぇ」
「そうだよね。つまり、信用のある人は仮想価値を作ることができるけど、信用のない人は仮想価値を作ることができないってこと」
「なるほど」
「会社とかの組織もそう。信用のある組織は仮想価値を作ることができるけど、信用の無い組織は仮想価値を作ることができない」
「ふむふむ。信用ってなんなのかな」
「んー、今まで約束を守ってきた実績、かな」
「ふむ。だから、約束を守ることが大事、信用が大事だって言いたいの?」
「まぁ、それも事実だけどね。そういうことが言いたかったわけじゃないよ」
「じゃあ何が言いたかったの?」
「約束を守っている限りは、次の約束で仮想価値を作ることが出来るってこと」
「分かったわ」