経済学を疑え!

お金とは一体何なのか?学校で教えられる経済学にウソは無いのか?真実をとことん追求するブログです。

消費税増税は“正解”なのか

先日ある人にこんなことを聞かれました。
「テレビの討論番組で消費税増税について賛成派と反対派が延々と議論していたが、結局どっちが正解なのか。実際に増税されたということはそれが正解なのか」
結局その時は時間が無くなって話せなかったので、私なりの回答をここに書いておこうと思います。

結論から言えば、富裕層にとっては消費税を増税することが正解で、庶民にとっては増税しないことが正解です。
私たちの目指すべきところが経世済民(世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと)なのだとすれば、庶民が得をするように、すなわち消費税は増税しないこと、もっと言えば減税したり廃止したりすることが正解となります。
詳しく説明しましょう。

ルールを変更すると何が起きるか

まず、税制というのはルールです。
当たり前ですよね。
世の中に色々あるルールのうちの1つが、何かを買う時に消費税として8%上乗せして払うというルールです。
そして、その税率を8%から10%に上げるというのはルールの変更です。
ルールの変更があると、その変更によって得をする人と損をする人が出てきます。
国民を富裕層と庶民の二つに分けて考えれば、庶民は間違い無く消費増税で損をしますよね。
実質的な可処分所得(=使えるお金)が減るわけですから。*1
そうすると、普通に考えれば富裕層は消費増税で得をするということになりそうです。
実際、庶民は所得の大部分を消費に使うため消費増税が大打撃であるのに対し、富裕層は所得の一部しか消費に使わないので、消費税が少々あがっても痛くありません。
「痛くないと言ったって、増税すれば支払いが増えるのだから損なのでは?」と思いますよね。
いったん、根本的なところに戻って考えましょう。

消費税を8%から10%に増やそうというルール変更の提案があった。
このルール変更で庶民は損をするので反対する。
富裕層も同じように損をするのだとすれば、誰がこのルール変更に賛成するのでしょう?
おかしいですよね。
皆が損をするのであれば、誰もルール変更に賛成しませんし、そもそもルール変更の提案自体が無いでしょう。
富裕層は消費増税で得をする「はず」なんです。

富裕層は消費増税で得をする

なぜ富裕層は消費増税で得をするのでしょうか?
その答えの一つは、消費税の増税法人税の減税とセットだからです。
下のグラフを見れば分かる通り、消費税増税の歴史は法人税減税の歴史でした。

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ざっくり言えば、消費税を増やした分だけ法人税を減らしたということです。
法人税を減らせば、法人の持ち主である富裕層が得をするのは当然ですよね。

富裕層が消費増税で得をする理由の答えをもう一つ言うとすれば、企業の行動が変わるからです。
消費増税によって庶民の実質的な消費が減ると、モノやサービスを作る企業としては、減った売り上げを補うために別のところで売り上げを立てなければなりません。*2
つまり、庶民が買わなくなった分だけ、お金を持っている富裕層をターゲットにしたモノやサービスを提供せざるを得なくなるのです。
このようにして、庶民の消費生活はより貧しくなり、富裕層の消費生活はより豊かになります。

消費増税を正当化するリクツ

さて、ここでもう一度根本的なところに戻りましょう。
消費税増税(=ルール変更)の提案があった。
ルール変更により損をする庶民は反対する。
ルール変更により得をする富裕層は賛成する。

庶民の方が富裕層よりずっと数が多いですから、普通に考えればこの提案は反対多数で否決されることになります。
富裕層がこのルール変更を押し通すにはどうすればいいか。
庶民を説得するためには、消費税増税を正当化する理屈(=言い訳)が必要になるのです。*3
基本的な正当化の理屈としては、「子や孫に負担を押しつけてはいけない」とか「このままでは財政破綻する」とかいう議論があります。

私たちが子孫に負担を押しつけることはない

まず私たちは、日本円という自国で発行している通貨を使って経済を回している限り、将来世代に何か負担をお願いするようなことはありません。*4
経済をモノやサービスで考えるなら、2019年に生きる私たちが受け取るモノやサービスは、2019年に私たちが生産して渡されるのです。*5
今年は野菜が不作だったから10年後に生産される野菜を取ってこようとか、今年は原油が不足したから30年後に採掘・輸入される原油を取ってこようなどと言うことはあり得ません。
2019年の経済は2019年に生きている私たちが成立させて帳尻を合わせるのであって、子孫に負担をお願いして彼らが生産したモノを現代に持ってくることはないのです。
当たり前ですよね。

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では、経済をお金で考えた場合はどうでしょう。
私たちは子孫からお金を借りているのでしょうか?
これも違うのです。

私たちは子孫から借金しているのではない

お金の貸し借り、つまり貸借関係というものは、「今」生きている誰かと誰かの間にあるものです。
「今」生きている誰かと「100年後に」生きている誰かの間にあるのではありません。
たとえば、私が佐藤さんから百万円借りているとしましょう。
この時、百万円を借りている私も貸している佐藤さんも「今」生きています。
私が今年分の金利として一万円を佐藤さんに支払ったとすれば、この一万円の支払いによって、2019年の生産物の分配が変わるのです。
すなわち、私の生産物の取り分が少し減って、佐藤さんの取り分が少し増えるわけです。
この2019年の生産物の分配の変化は、子孫の経済に全く影響を与えません。
当たり前ですよね。*6
貸借関係は、「今」の生産物の分配を変えるのです。

政府の債務で言うと、貸しているのは「今」存在している銀行や日銀や年金基金や個人です。
この貸借関係は、金利の支払いによって「今」の生産物の分配を変え、貸している人の取り分を増やします。
もう少し踏み込んで言うなら、巨額の政府債務の存在は、生産物の分配を変えて誰かが得をするための「言い訳」として使われます。
「こんなに借金があるのだから、もっと税金を支払え。このままでは破綻してしまうぞ」というわけです。

ここで立ち止まって考えなければなりません。
政府の財政は、このままでは本当に破綻してしまうのか?
いいえ、破綻などするはずがないのです。
経済を回すための通貨は自国で発行しているのですから。

政府の財政は破綻しない

この「破綻などしない」というのは、「自転車操業をいくらでも続けていられる」というようなニュアンスの話ではありません。
もっと根本的な話です。
たとえばモノポリーというゲームで言うと、プレイヤーの他にゲームを取り仕切るバンカーという役目の人がいますが、バンカーが破産することを心配する人がいるでしょうか?
いるわけないですよね。
ゲーム内でプレイヤーに渡す紙幣がもし足りなくなったら、紙に数字を書いて作ればいい話であり、バンカーにはそれをする権限があるからです。

 

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あるいはドラクエXのようなオンラインゲームで、ゲームを運営している会社がゲーム内のゴールドをプレイヤーに払えなくなって破綻することを心配する人がいるでしょうか?
いるわけないですよね。
ゲームの運営会社はゲーム内の通貨を作る権限を持っているのですから。
自国通貨を発行する権限を持っている政府が破綻しないのは、これらと同じレベルの話なのです。
日本の政府*7は円というゲーム内通貨を作る権限を持っているのですから。

日本円はゲーム内通貨

円がゲーム内通貨だと言ったら違和感があるでしょうか。
試しに百万円の札束を持って月旅行にでも行けば、円が全く役に立たないことが良く分かるでしょう。
月はゲーム内世界ではないということです。
月まで行かなくてもジャングルの奥地にでも行けば分かりますし、隣の国に行ったって両替商を見つけることが出来なければ同じことです。
円は日本*8というゲーム内世界で使えるゲーム内通貨なのです。
政府はそれを作り出す権限を持っている「運営会社」なのですから、破綻などするはずがありません。

このように「自国通貨を発行する政府は破綻しない」という話をすると、次に必ず出てくるのが「そんなことを続けたらハイパーインフレになる」という議論です。
いいえ、なりません。
ハイパーインフレなど起きません。

ハイパーインフレは起きない

急激なインフレというものは、なんらかの要因で需要に対して供給能力が大幅に失われた時に発生するのです。
たとえば、日本中の田んぼの大半が放棄されてしまいコメが例年の十分の一しか生産できなかった、しかも食料の輸入もストップしたとなれば、コメをはじめ食料の価格は暴騰するでしょう。
あるいは、戦争に負けて日本中の都市が焼かれた上に巨額の賠償金を課されてしまったとしたら、第一次大戦後のドイツのようなハイパーインフレが起きるかも知れません。
要するに、例外的なことが重ならない限りハイパーインフレは起きないのです。
お金の量が大幅に増えたぐらいのことではハイパーインフレにはなりません。*9

百万円ずつ配ったら?

ちょっと考えてみてください。
仮に政府が国民に一人当たり百万円ずつ配ったとしましょう。
貴方も百万円もらいました。
そうしたら、貴方はコメを買う量を5倍や10倍に増やすでしょうか?
別に増やしませんよね。
需要側の要因(需要が増えること)でコメの価格が上がることはないということです。

では、供給側の要因はどうか。
貴方がコメの生産者だったとして、皆がお金を持っているからという理由で販売価格を5倍や10倍に上げるでしょうか?
上げられないですよね。
上げたら買い手は貴方から買うのをやめて別の人から買うだけです。
コメの生産者全員で結託すれば大幅な値上げも可能でしょうが、そうすれば消費者はコメの代わりに別の食料を買うでしょう。
供給側もコメの価格は上げられないのです。
価格が上がることがあるとすれば、ちょっとした贅沢品であるとか、あるいは株や土地のような資産の価格が上がるのです。
資産バブルが発生することはありえますが、ハイパーインフレにはなりません。

まとめ

結論としては、私たちの目指すところが経世済民(世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと)である限り、消費税は増税しないこと、さらに言えば減税や廃止をすることが正解です。
逆に、富裕層による庶民の奴隷化を押し進めること(もう少しマイルドに表現するなら貧富の格差を拡大すること)が私たちの目指すところであれば、消費税はどんどん上げて法人税はゼロにするのが正解でしょう。

 

*1:財政破綻うんぬんについては一旦忘れてください

*2:減った分を全て埋めることは出来ないでしょうが。

*3:誰が正当化してくれるのかって?庶民の中にも勝手に正当化をしてくれる人がいるのですが、高度な言い訳は権威のあるケイザイガクシャの方々がやってくれます。

*4:将来にツケを残すことがあるとすれば、環境を破壊した場合や、橋やトンネルや水道管等のインフラを保守せずに失った場合、また作るべき堤防やダムを作らなかった場合などです。

*5:それ以前に生産されて保存されていたモノが渡される場合もありますが。

*6:もちろん、この貸借関係が来年も変わらないなら、来年も生産物の分配が一万円分だけ変わります。

*7:より正確に言えば中央政府中央銀行銀行を合わせた統合政府です。

*8:より正確に言うなら円通貨圏です。

*9:ドイツでハイパーインフレになったのは、戦勝国の人々が賠償金を使ってドイツの生産物を外から奪っていったからです。