「今回は、技術的失業について考えるよ」
「ふーん。技術的失業ってなに?」
「ロボットやAIの技術が発達すると、人間の代わりにロボットやAIが仕事をするようになるよね*1」
「そうね」
「そうすると、その仕事をしていた人間は失業してしまう。これが技術的失業だ」
「ああ、そういうこと。でも、そうやって失業した人は、別の仕事につくんでしょ?」
「まぁ、失業した人は別の仕事を探すことになるよね」
「そうやって、失業した人が新しい仕事につくことで経済が成長していくんだって聞いたことがあるわ」
「うん。まぁ、間違いではないね」
「……と言うと?」
「まず、失業した人がどんな仕事につくのか、そもそも再就職できるのかが問題だ。ちょっとたとえ話で考えてみよう」
「ふむ」
「A太という人が技術的失業をしたとするよ」
「えーた君ね。どんな仕事をしてたの?」
「仕事は何でもいい」
「具体的な方がイメージしやすいわ」
「じゃあ、A太は刺身の上にタンポポを乗せる仕事をしていた」
「えっ、そんな仕事ある?」
「あったと思って」
「……」
「自動でタンポポを乗せる機械が導入されて、A太はクビになったわけだ」
「なるほど、技術的失業ってそういうことね。それで?」
「彼は新しい仕事を探したが、なかなか良い仕事が見つからなかった」
「なんで?」
「そもそも、世の中が人間の労働を機械に置き換える方向に動いているからね。機械化が可能な職種は求人が少なくなってしまう」
「ふーん。でも、人間にしか出来ないような仕事もあるんでしょ?」
「そうだね。たとえば、機械やソフトウェアを開発する仕事は人間でないと難しい。でも、A太にはそんなスキルはないからね」
「うーん、そういう特別なスキルがなくても出来る仕事はないの?」
「あるよ。直接人間に接する仕事は機械よりも人間の方が得意だから、対人スキルがあれば大丈夫だ」
「たとえば?」
「接客の仕事とか、営業の仕事とかね。勉強は必要だけど介護や保育なんかもそうだ」
「ふむふむ」
「でも、比較的簡単で誰にでも出来る仕事であればあるほど応募が集中するから、給料も安くなるし、ブラックになりがちなんだよね」
「ふーん。でも、給料が安くてブラックだったとしても、ぜいたく言っちゃダメでしょ。仕事を選ばず、やれる仕事をやるべきだわ」
「そういうことを言う人は多いね。確かにそうかも知れない」
「でしょ?」
「でも、人間だれしも、やりたくない仕事ってのはあるよね*2」
「うーん。やりたくない仕事だとしても、それしかないなら仕方ないんじゃない?」
「そうだろうか。マイには、この仕事だけは死んでもやりたくないっていう仕事はある?」
「まぁ、あるけど」
「その仕事をして生きるか、さもなくば死ぬかという状況にまで追い込まれたらどうする?」
「うーん……。死ぬぐらいなら、やるかも知れないけど……」
「死んでもやらないんじゃないの?」
「それは言葉のアヤってもんでしょ」
「ふむ。もし、死んでもやりたくない仕事をしながら生きなければならないんだとしたら、その人には、人間としての尊厳というものは残されているんだろうか」
「うーん……」
「それって奴隷と同じじゃない?」
「うーん……」
「少なくとも、その人には職業を選択する自由が許されていないってことだよね」
「そうなるか……」
「人間には、どうしても嫌な仕事はやらない権利がある。そうでしょ?」
「……そうかもね」
「同じように、今やってる仕事を続けることがどうしても無理になったら、辞める権利がある。そうでしょ?」
「それはそうだわ」
「さて、A太が再就職できなかったとすると、どうすればいいだろうか?」
「んー、自分で商売でも始めるしかないんじゃない?」
「そうだね。A太はどうにかお金を稼ごうとして、弁当屋をはじめた」
「おお、いいじゃない」
「しかし、うまくいかなかった」
「どうして?」
「結局、既存の弁当屋には勝てなかったんだよ。品質の面でも、価格の面でもね」
「そっか。既に成功しているライバルと戦って、勝つことは簡単じゃないよね」
「うん。これはどんなビジネスにも言えることで、既にあるビジネスと同じことを始めようとしても勝つことは難しい」
「じゃあ、今までに無かったようなビジネスをすればいいわけね」
「そうなんだけど、それも簡単なことじゃないよね」
「今までに無かったモノやサービスを作って売ればいいんでしょ?」
「言うのは簡単だけど、そんなことが出来るのは一握りの人だけだよ。A太にはムリだ*3」
「じゃあ、その一握りの人に起業してもらって、A太を雇ってもらえばいいじゃない」
「そうだけど、それもさっきの話と同じだね。起業した人が欲しがる人材は、高いスキルを持っている人か、ブラック労働を安い賃金でやってくれる人かになってしまう」
「うーん、じゃあどうすればいいのよ」
「どうすればいいのか、次回あらためて考えよう」
「ふむ」
( ↓ この記事に続きます)