遊んで暮らす=搾取して暮らす
「マイは、遊んで暮らせるようになりたい?」
「もちろんよ。誰だってそうでしょ」
「そうかもねぇ。どうすれば遊んで暮らせると思う?」
「お金がたくさんあればいいでしょ」
「そうだね。どれぐらいのお金があればいいだろうか」
「うーん。最低でも、2億円ぐらい?」
「ふむ、じゃあ2億円としようか。マイが社会に出てから30歳になるまでほとんど寝ずに一生懸命働いて、2億円貯まったとしよう」
「ずいぶん稼いだわね」
「で、この2億円で後は遊んで暮らせるわけだけど、そういうのがお望み?」
「まさか! 私は働かないで暮らしたいの!」
「そうだよね。必要な2億円を自分で稼ぐんなら、50年かけて稼ぐのも10年ちょいで稼ぐのもあまり変わらないよね」
「そうよ」
「自分で稼ぐのでは意味が無い。だとすると、どうすればいい?」
「うーん……。他の人に、稼いでもらう……?」
「その通り。本当の意味で遊んで暮らそうと思ったら、他の人から搾取するしかないんだ」
「サクシュってなに?」
「しぼり取ることだね。ここでは、他者の労働の成果を自分の物にしてしまうことを搾取と言うことにしよう」
「他者の労働の成果を……? えーと……」
「たとえば、マイが1日アルバイトして1万円稼いだとしよう。そのうちの3000円を僕が取り上げてしまう。これが搾取だ」
「えーっ!ずるい!」
「そうだね。搾取ってのはずるいことなんだよ。でも、遊んで暮らそうと思ったら、他者から搾取するしかない」
「私が働いて稼いだお金なのに……! あなた、本当に最低ね!」
「あの、たとえばの話だからね?」
搾取の3つの方法
「でも、どうやって取るの? 3000円よこせって言われても私は渡さないわよ?」
「そうだね。搾取の方法には、大きく分けて3つある」
「ほう」
「一つ目は、盗み取るという方法。僕がマイの財布からこっそり取っちゃうってことだね」
「えっ、ひどい」
「二つ目は、だまし取るという方法。僕がマイに『B'zのライブチケットを3000円で売ってあげるよ』と言って、偽造したチケットを売りつけるとかね」
「えっ、ひどい」
「三つ目は、おどし取るという方法。僕がマイに『3000円くれないと、例の写真をネットに流すよ』と言って取るとかね」
「何よ例の写真って。そんな写真無いでしょ?」
「たとえばの話だよ」
「……ちょっと、やることがひどすぎない???」
「まぁ、ひどいね。搾取っていうのは基本的にひどいことだよ」
「そういう違法行為をしないと、遊んで暮らすことって出来ないわけ?」
「いやいや、ちょっと待って。搾取が倫理的に悪いことなのは間違いないんだけど、必ず違法行為になるとは限らないよ」
「えっ、どういうこと?」
「合法的に搾取することも可能だってこと」
「ウソだー!」
「それに、たとえ違法だったとしても、捕まらないのであれば問題ないよね」
「……すごいこと言うわね」
「まぁ、一つずつ説明していこう。オススメな方と、オススメじゃない方、どっちから聞きたい?」
「うーん、オススメな方で」
おどし取る(脅迫)
「まず、おどし取るという方法。要するに脅迫だね」
「脅迫がオススメなわけ? なんで?」
「脅迫ならなんでもいいというわけじゃないけどね」
「ほう」
「脅迫には大きく分けて二つの方法がある」
「と言うと?」
「一つは、相手にとって大切なものを脅かす(おびやかす)方法だ」
「たとえば?」
「ナイフを突きつけて、相手の命を脅かすとか」
「おお」
「子供を誘拐して命を脅かすとかね」
「犯罪じゃん」
「そうだね。違法にならない範囲で言うと、たとえば“雇用”を脅かすとかね」
「どういうこと?」
「クビになりたくなければサービス残業しろと言われたら、従うしかないでしょ?」
「いや、それも違法なんじゃ……」
「脅迫のもう一つの方法はね、」
「(あれ、無視された)」
「もう一つは、何か必要なものが不足している状況を利用して、足下を見る方法だ」
「たとえば?」
「砂漠を何日も歩いていて水が無くなってしまった人がいたとしたら、この人に一杯の水を百万円で売るとかね」
「あー、それはたしかに違法ではないのかもね。でも、そんな人を見つけるのが大変でしょ」
「水の不足を利用して脅迫するなら、もっといい手があるよ」
「ほう」
「どこかの国や地域で水道事業を民営化させて乗っ取り、水道代をガツンと上げればいい」
「……鬼かよ」
「まぁ、搾取ってのはこういうことだよ」
「うーん……。他には?」
「他には、依存を利用する手もあるね」
「依存?」
「たとえば覚醒剤のような薬物だね。覚醒剤の中毒患者を作ってしまえば、その人は常に覚醒剤が不足して欲しがることになるでしょ」
「なるほど。後はいくらでも高く売れるわけね……」
「そういうこと。まぁ、覚醒剤は違法だけどね」
「ふーむ。アルコールでも同じこと?」
「基本的にはね。ただ、アルコールは覚醒剤ほどには依存性が強くないし、搾取できる利幅もそれほど大きくないけどね」
「ギャンブル中毒も?」
「そうだね。パチンコなんかの中毒になった人から搾取してると言えるだろうね」
「ふーむ」
だまし取る(詐欺)
「次に、だまし取るという方法。要するに詐欺だね」
「ふむ。これはオススメなの?」
「脅迫ほどではないけど、ある程度オススメできる」
「ふーん。なんで?」
「詐欺は、たとえそれが犯罪だったとしても、相手がだまされたと気付くまでの間は何の問題も起きないからだよ」
「そりゃまぁ、だまされたと気付かなきゃ、警察に通報もできないわよね」
「うん。極端な話、相手が死ぬまで気付かなければ、捕まることもないわけだ」
「そんなことあり得る?」
「たとえば宗教の中には、信者の信仰心を利用して、財産をだまし取っていると言えるようなものもあるだろう」
「うーん、そうかもねぇ」
「そういう場合、他の人から見ればだまされていることが明らかでも、本人はだまされていると思ってないことは良くあるよね」
「たしかに……」
「死ぬまで搾取される人もいるでしょ」
「なるほど! ……宗教か……。悪くないかも、ね。。」
「マイ、悪い顔になってるよw」
「えっ? そ、そんなことないでしょ」
「まぁ、だまし取る方法で搾取をするなら、宗教はかなりオススメだよ。税金もあまり払わなくていいしね」
「ふーむ。他には何かある?」
「詐欺にはいろいろあるけどね。保険金詐欺、結婚詐欺、投資詐欺、取り込み詐欺、オレオレ詐欺などなど……」
「どれがオススメ?」
「だいたい犯罪になってしまってリスクが高いので、オススメはできない」
「犯罪にならない範囲でだまし取ることってできないの?」
「そういう軽い詐欺なら、世の中にいっぱいあると思うよ」
「たとえば?」
「そうだなぁ。たとえば、ファッションの流行に敏感な人なんかは、ファッション業界に軽くだまし取られていると言えるよね」
「あー。本来買わなくていい服を買うわけだもんね。でも、それは本人が良ければいいんじゃない?」
「そうとも言えるね。でも、だまされていることに死ぬまで気づかない人だ、とも言えるよね」
「うーん……」
盗み取る(窃盗)
「最後に、盗み取るという方法。要するに窃盗なんだけど、これはあまりオススメできない」
「なんで?」
「盗むことは明確に違法行為だからね」
「そりゃそうよね」
「それに、盗まれたことに気付けば普通は警察に通報するでしょ」
「ある程度大きな金額なら、泣き寝入りはしないわね」
「そうでしょ。リスクが大きいので、オススメはできない」
「ふむ」
「だから、どうしても盗むという方法をとるのであれば、盗まれたことに気付かないような不注意な人から盗むのがよい」
「なるほど……」
「もしくは、盗まれても警察に言えないような人から盗むとかね」
「というと?」
「犯罪がらみのお金なら、警察に言うわけにはいかないだろう」
「なるほど」
「ただこの場合、警察には追われないとしても、盗まれた人や組織には追われるかも知れないので注意が必要だ」
「まぁねぇ」
「どうせ追われるなら、警察に追われる方がまだマシだ、と言える面もある」
「なんで?」
「捕まったとしても、法にのっとった手続きをしてくれるからさ。ヤクザに追われて捕まったら、何をされるか分からないでしょ」
「……こわっ」
「結論、盗まれても気付かないような不注意な人から盗むチャンスがあるのでない限り、盗み取るという方法はオススメできない」
「分かったわ」
不足を利用した脅迫のオススメポイント
「搾取の方法を3つ説明してきたわけだけど」
「うん」
「一番のオススメはやはり脅迫、それも不足を利用した脅迫だ」
「どうしてそれが一番なの?」
「理由はいくつかある。一つは、さっきも言ったけど、合法的に搾取できる場合が多いということ」
「ふむ。それは分かったわ」
「次に、不足を利用した脅迫は防ぐことが難しい」
「どういうこと?」
「盗み取られることは注意していれば防げるし、だまし取られることも人を疑って慎重に行動していれば防げるでしょ」
「それはそうね」
「でも、何かが不足した状況になっちゃってる場合、脅迫にあらがうことは難しいよね」
「たしかに……。水を飲むのをいつまでも我慢できないもんね」
「そうだね。次に、不足を利用した脅迫には、継続性がある」
「継続性?」
「いちど搾取の仕組みを作ってしまえば、ずっと継続して搾取できるってこと」
「ふーむ。いっぺん覚醒剤の中毒にしちゃえば、その人にはずっと買ってもらえるもんね」
「そういうこと。結婚詐欺なんかでも何度かお金を取ることは出来るけど、ずっとではないよね。そのつど理由を作ってだまさなきゃいけない」
「なるほど」
「最後にもう一つ。不足を利用した脅迫は、多人数から一度に搾取できる」
「あー。水道事業を乗っ取って値上げする手口とか、そうだよね」
「そうそう」
「んー。でも、宗教もそうじゃない? 多人数から一度に搾取してるじゃない」
「うん、多くの信者を獲得した後はそうだね。でも、信者の獲得自体は一人一人地道にやるしかないでしょ」
「あー……」
「この地域に住んでいる皆さんは、今日からナントカ教の信者です。ということにはならないよね」*1
「そうね……」
「不足を利用した脅迫は、搾取の対象を広げやすいんだよ」
「ふーむ」
「搾取する側からすれば、百人や千人から搾取するよりも一万人、十万人から搾取したいよね」
「そりゃそうね」
「一つの地域から搾取できたら一国まるごと搾取したいし、一国を搾取できたら二カ国、三カ国から搾取したいでしょ」
「うーん。話が大きすぎて良く分からないけど、そうかもねぇ」
「こういう風にどんどん広げていけるのが、不足を利用した搾取のいいところだ。他の方法ではこうはいかない」
「ははぁ」
搾取する者は均一な世界を望む
「たとえば、ある企業がA国という国の国民全員から搾取する仕組みを作ることに成功したとするよね」
「ふむ」
「この企業が搾取の対象を広げようとして、次にターゲットにする国を選ぶとしたら、A国に似たB国だろうか? それともA国とは全く似ていないC国だろうか?」
「似てるって何が? 地形とか?」
「そうじゃなくて。いろいろあるけど、たとえば政治体制とか、法体系、商習慣、社会制度、金融ルール、経済政策、国民性、言語、宗教、通貨、発展の程度、生活水準……」
「ストップ! 要するに、一言で言うと何?」
「……。経済の仕組み、かな……」
「最初からそう言えばいいでしょ」
「ごめん」
「経済の仕組みがA国と似てるB国か、似てないC国か、ね。そりゃ似てるB国の方がいいんじゃない?」
「正解。どうしてそうだと思う?」
「だって、A国と似たB国なら、A国でやったことと同じことをするだけで、同じ結果が得られそうじゃない」
「うん、つまり成功する可能性が高いってことだね」
「そう。似てないC国に対しては、違うことをしなきゃ成功しないかもしれないでしょ」
「その通り! 冴えてるね」
「当然だわ」
「つまり、搾取をどんどん広げようという人や企業から見ると、世界中の国が同じような経済の仕組みで動いてる方が都合がいいんだよ。搾取の対象を世界中に広げるのが簡単だからね」
「ふむふむ」
「逆に、世界の国々が多様であればあるほど、面倒くさいんだ」
「そうか、一つ一つの国に合わせて対応を変えなきゃいけなくなるからね」
「そういうこと。搾取を広げようとする人や企業は、世界が均一であることを望むということだ」
「ふーむ。なるほど……」
「グローバリゼーションの本質が少し分かったかな?」
「えっ? そんな話してた?」
「してたよ」
「うーむ……」
私たちはお金に依存している
「ここで一つ、ある重要なことを言わなければならない」
「なによ、急に」
「私たちは皆、お金に依存しているということだ」
「えっ?」
「人は誰しも、お金無しで生きていくことはできないよね」
「当たり前じゃない」
「麻薬中毒の人が、麻薬無しで生きていくことができないのと同じようにね」
「うーん。私たちがお金の中毒になってるって言うの? そんなことないでしょ。お金とは賢く付き合ってるわ」
「そうだろうか。一文無しになってしまったら誰だって、どうにかしてお金を手に入れようとするんじゃない?」
「そりゃそうでしょ」
「かなり金利が高くてもお金を借りようとするだろうし、条件の悪い雇用でも受け入れるしかないよね」
「そうね」
「麻薬が切れたジャンキーが、麻薬を手に入れるためならどんな条件でも飲むようにね」
「……いちいち麻薬にたとえるの止めてくれる?」
「気に障った?」
「ちょっとね。……分かったわ。確かに、私たちはお金に依存してると言えるかもね」
「うん。そして、私たちの多くは常にお金の“不足”にあえいでいる」
「……」
「お金が足りない、もっと働かなきゃ。お金が足りない、財産を処分しなきゃ。お金が足りない、高収入バイトしなきゃ……。苦しんでる人は多いよね」
「……3つ目、風俗?」
「そこはスルーして。とにかく、私たちはお金に依存していて、多くの人はお金の不足に苦しんでいる。何が言いたいか分かる?」
「うーむ……。つまり、お金の不足を利用して、脅迫による搾取をしてる人がいる……ってこと?」
「その通り。お金というものには搾取の道具としての一面があるんだ」
「……」
「お金をたくさん持っている人、あるいはお金を作れる人は、お金が不足している人から搾取できるんだよ」
「うーむ……」
「最終的な結論。遊んで暮らすための戦略としては、搾取によってお金を貯め、そのお金を使ってさらに搾取をするのが最善だということだ」
「普通に働いてお金を貯めるんじゃダメなの?」
「もちろんそれでもいいよ。効率があまり良くないってだけの話だよ」
「うーむ……」
*1:武力を背景に改宗を強制する場合もありますが。