「今回は、魔法の世界の話をしよう」
「また唐突ねぇ。魔法の世界って、異世界モノってこと?」
「そう思ってくれて構わないよ。我々の住む世界とは違う世界のお話だ」
「ふーむ。聞きましょう」
「その世界には、魔法を使うことが出来る人、つまり魔法使いがいる」
「ほう。使えない人もいるってこと?」
「そうだね。大部分の人は魔法を使えない」
「ふむ。それで?」
「魔法使い達は、魔法が使えるというだけで偉いとされていて、貴族のような暮らしをしている」
「魔法使いが貴族……。いいわねぇ。遊んで暮らせるってことでしょ?」
「まぁ、そうだね。一般の民衆は貴族である魔法使いに定期的に貢ぎ物をする。魔法使いはその見返りに、魔法の力で世界の平和を守っている」
「なるほど。遊んでばっかりってわけでもないのか」
「そうだねぇ」
「私もその世界で魔法使いになりたいなぁ。どうすれば魔法が使えるようになるの?」
「普通の学校で、魔法の理論は教えてもらえる。これを一般魔法学と呼ぶことにしよう」
「理論を学べば使えるようになるの?」
「いや、ならない。魔法を使えるようになるのは、生まれつき魔力を持っている人だけなんだ」
「力が欲しい……」
「魔法学校に入学して、実践的な魔法学、すなわち実践魔法学を学べば魔法を使えるようになるんだけどね。魔力を持っている人じゃないと魔法学校には入れないんだよ」
「うーん……」
「魔力は遺伝するから、魔法使いの子供が魔法学校に入って、また魔法使いになるんだ」
「生まれで決まっちゃうのかぁ。ずるい」
「そうだね。貴族が世襲制なのと同じように、この世界の魔法使いも世襲制になってるわけだ」
「貴族の家に生まれたい人生だった」
「じゃあ、マイはこの世界の魔法使いのトップである法王の娘として生まれたとしようか」
「マジで!やった!」
「法王は立派な大邸宅に住んでいて、たくさんの貢ぎ物が届くから、マイは何不自由なく育つ」
「いいね~」
「マイが15歳になると、いよいよ魔法学校に入学する」
「高校ぐらいね」
「魔法学校は全寮制で、長期休暇以外は外に出られないよ」
「そうなんだ」
「それに、教えられる内容は外部には秘密になっていて、関係者以外は絶対に学内に入れないようになっている」
「ふーん。ずいぶん厳重なのね」
「入学したマイは実践魔法学を学ぶことになる。その内容とは……」
「内容とは?」
「ただの手品だった」
「は?」
「実はこの世界にも、魔法なんてものは無いんだ。民衆が魔法だと信じているものは、本当は、タネも仕掛けもある手品にすぎないんだよ」
「はぁ?……魔法なんて無い……?」
「うん」
「魔力は遺伝するって言ったのは?」
「ウソだよ。魔力なんてものも無い」
「じゃあ、魔法の力で世界を守ってるってのは?」
「何か仰々しい儀式をして、『これで守られた』って言ってるだけ」
「えぇぇぇ~。じゃあ、普通の学校で教わる魔法の理論は?」
「一般魔法学は、完全な創作だ。民衆が魔法を信じ込むように、綿密に作り込まれているけどね」
「んなアホな……」
「知ってしまえばアホらしい話だけどね。魔法を信じている教師から『これが魔法の理論だ』と教えられていたら、子供が疑うことはまず出来ないだろう」
「そうかも知れないけど……」
「とにかく、この魔法の秘密が守られている限り、手品師にすぎない魔法使い達は民衆の上に君臨し、遊んで暮らすことが出来る」
「ひどい話ね」
「マイもそうだよ。秘密が守られている限り、一生働かずに贅沢な暮らしができる」
「うーん、ちょっと後ろめたくなってきた」
「普通に働いて、地味な暮らしをする方がいい?」
「働きたくないでござる」
「だよね。じゃあ、秘密を守らないとね」
「うん……。一応聞くけど、バレたらどうなるの?」
「民衆がこの事実を知った場合、何が起きるか分からないけど、魔法使い達が遊んで暮らすことが出来なくなることだけは間違いない」
「そうでしょうね」
「最悪の場合、暴動が起きて魔法使い達が殺されるかも知れない」
「ウソ!死にたくない!」
「バレないようにしないとね」
「うん……」
「さて、ある学者が一般魔法学に疑問を持ったとしよう」
「えっ!」
「この理論のここは間違っているんじゃないか、ここもおかしい、などと主張している」
「ヤバい……」
「まだ、一般魔法学の全てが虚構だとは思っていないようだが、非常に頭の良い人なので、そこに考えが至るのも時間の問題だとしたら……どうする?」
「……殺す」
「おいおい(笑)」
「だって、バレたら殺されちゃうかも知れないんでしょ?バレる前に殺さなきゃ!」
「うん、まぁ、それは最後の手段としよう。殺さずにどうにかできないかな」
「うーん、研究をやめてもらうように説得するとか?」
「そうだね。むしろ、こちら側の学者になって欲しいよね」
「こちら側?」
「一般魔法学を、もっと穴の無い、強固な理論にするような研究をしてもらうのさ」
「確かに、その方がありがたいわね。でも、嫌だと言ったら?」
「少し脅してみようか。こちらの言うことを聞かなければ、今の職を失うことになるし、誰も雇ってくれなくなるぞ、と」
「そんなこと出来るの?」
「マイは法王の娘だからね。大抵のことは出来るよ」
「なるほど。それで従ってくれるかな」
「損得を考えるタイプなら大丈夫だろうね」
「そうじゃなかったら?」
「家族がどうなっても知らんぞとか、他にも脅し方はある」
「怖いこと言うわね。家族も恋人も居なかったら?」
「最後の手段、だね」
「うーん……。説得に応じてくれることを祈るわ」
「そうだね。さて、今回の話に教訓があるとしたら、何だと思う?」
「えーと、魔法なんて無い!」
「そこじゃないよ(笑)」
「じゃあどこ?」
「支配者にとって都合の悪い真実は、追求しない方がいいってこと」
「追求しちゃうと……?」
「人生がかなりハードモードになる。最悪の場合、殺されてしまう」
「殺されるって、そんな大げさな」
「おいおい、自分が何を言ったか覚えてないの?(笑)」
「あっ……!」
「学問というものは、全て真実を追求しているように思えるだろう。でも、真実を追求してはいけない学問分野もあるってことだよ」
「うーむ……。それが、経済学だと言いたいの?」
「経済学の全てがそうだとは言わないけどね。少なくともマクロ経済学、特に貨幣や信用創造に関わる部分はそうだ」
「ふーむ」
「これは、経済学に限った話じゃないよ。たとえば、韓国に住んでいる歴史学者は、真実を追求できないでしょ?」
「なるほど、たしかに(笑)」