黒田バズーカは貨幣乗数を殺した
黒田日銀による量的・質的金融緩和、いわゆる異次元緩和によって何が起きたのでしょうか。
実際のデータから検証してみたいと思います。
異次元緩和でやりたかったことは以下の3つです。
- 企業や個人の資金需要を喚起しする
- 銀行からの貸し出しを増やす
- インフレ率を2%まで上昇させ安定させる
これらの目的のために、日銀はお金(ベースマネー)を大量に作って供給し、日銀が作ったお金の総額(マネタリーベース)を大きく増やしました。
結果として、3のインフレ率上昇が実現していないことはご存じの通りです。
1と2については私たち家計や企業が使うお金の総量(マネーストック)を増やしたかったわけですが、実際には増やすことが出来たのでしょうか。
このグラフは、年度毎にマネタリーベース(MB)とマネーストック(MS)がどれぐらい増えたのかをまとめたものです。*1
例えば2008年度にはマネタリーベースは約6兆円増え、マネーストックは約13.5兆円増えています。
黒田日銀の異次元緩和が始まったのは2013年度。
青い棒が急に伸びているのが分かるでしょう。
12年度に22.3兆円だったマネタリーベースの増加額は、13年度には73.9兆円と大幅に伸びています。
この時マネーストックはどうなっているかと言うと、12年度に28兆円増だったものが、13年度には32.6兆円増と、大して増えていません。
その後も気が触れたかのようにマネタリーベースを増やしているにもかかわらず、マネーストックの増加額は大して増えていませんね。
これは、「マネタリーベースを増やすことによってマネーストックを増やす」ことは出来なかったということです。
貨幣乗数の死
マクロ経済学の教科書には貨幣乗数というものが載っていて、マネタリーベースを増やすとその金額の貨幣乗数倍だけマネーストックが増えることになっています。
例えば貨幣乗数が5であれば、マネタリーベースを1兆円増やせばマネーストックは5兆円増えるという具合です。
しかしこのグラフを見れば、そのようなことは実際には起きていないことが分かるでしょう。
グラフの他の部分を見ても分かりますが、マネタリーベースの増減と、マネーストックの増減とは、あまり関係が無いのです。
少なくとも、マネタリーベースを増加したことがマネーストックの増加額に影響を与える、という関係にはありません。
要するに貨幣乗数などというものはウソだということです。
貨幣乗数というウソを教科書に載せて経済学部の学生に教えることの弊害は、サイモン・レンルイスという経済学者が Kill the Money Multiplier!というブログ記事に書いています。(拙訳:貨幣乗数に死を!)
黒田日銀は異次元緩和という壮大な社会実験を実施して貨幣乗数がウソであることを実証し、貨幣乗数なる机上でしか通用しない概念に死をもたらしたことになるでしょう。