信用創造できるのは銀行だけか
「今回は、信用創造でお金を作ることができるのは銀行だけなのかという話をしよう」
「うーん、前にも説明してもらったかも知れないけど……信用創造ってなに?」
「簡単に言うとね、銀行がお金を貸す時に、預金通帳にただ数字を書き入れるだけでお金を作り出すことを信用創造と言うんだよ」
「数字を書き入れるだけで、なんでお金を作ったことになるの?」
「預金通帳で分かりにくければ、預金証書で説明してみよう」
「ふむ」
「例えば、君が銀行に1万円の現金を預けるとするよね」
「うん」
「そうすると、銀行は1万円という数字の書かれた預金証書を渡してくれるでしょ」
「そうね」
「この預金証書は、銀行に持って行けば1万円の現金と交換してもらえるよね」
「うん」
「仮に、誰が持って行ってもその人に1万円の現金を渡してくれるとするなら、この預金証書は1万円の現金と同じように使えるよね」
「あー、たしかに。受け取った人が銀行に持って行けば現金と交換できるもんね」
「次に、銀行がお金を貸す時の話をするよ。僕が銀行に行って10万円貸してくれと言ったとすると、銀行は1万円の預金証書を10枚作って渡してくれるんだ」
「ほほう」
「この預金証書も、現金と同じように使えるでしょ?」
「あー、だから、預金証書という紙切れを作るだけでお金を作ったことになるってわけ」
「そうそう。預金通帳で言えば、100,000という数字を書き入れることに相当するでしょ」
「でも、現金が無いのに預金証書という形のお金を作っちゃったら、現金と引き替えに来られた時に破綻しちゃわない?」
「そこをうまくやるのが銀行の仕事だよ」
「ふーん……(詐欺っぽい……)」
「こんな風に銀行がお金を作ることができるのはなぜかと言うと、銀行はお客さんから預かったお金を混同管理しているからなんだ」
「混同管理?」
「前々回の記事で、自社の資産と分別して管理せずに、自社の資産と同じように扱ってしまうことを混同管理と呼ぶことにしたよね」
「そうだったわね」
「もし、銀行がお客さんから預かったお金を分別管理していたら、通帳への書き込みでお金を増やすことはできないんだよ」
「なんで?」
「通帳に100,000と書いたら、預かったはずの10万円を、自社の資産から出して、預かったお金として管理しなきゃいけないからさ」
「ははぁ」
「そうすると、100,000という数字の裏側に実際に10万円の現金があるわけだから、お金を作ったことにはならないよね」
「なるほど。混同管理していれば、自社の資産から10万円出さなくていいわけね」
「そういうこと。結局、銀行が信用創造でお金を作ることができるのは預かったお金を混同管理しているからなんだ」
「ふーむ……。ということは、銀行じゃなくても混同管理すればお金を作れるってこと?」
「その通り。例えば、証券会社のお客さんが株を買うために100万円貸して欲しいと言ってきたら、そのお客さんが証券会社に持っている口座の数字を書き換えて、100万円貸したことにできるよね」
「そんなことして問題が起きない?」
「そこをうまくやるのが証券会社の仕事だよ」
「ふーん……(詐欺っぽい……)」
「まぁ実際には、証券会社には混同管理が許されてないから、できないんだけどね」
「ふむ」
「オンラインカジノなんかでも、信用創造は可能だよ。プレイヤーからの預り金を混同管理していればね」
「あー、そうか。プレイヤーがお金を貸してくれと言ってきたら、そのプレイヤーのアカウントの数字をいじればいいだけだもんね」
「そういうこと」
「じゃあ、混同管理さえすればお金は作れるってこと?」
「そうなんだけど、作ったお金の利便性には差があるよね」
「と言うと?」
「買い物の代金を払う時、銀行の預金なら振り込みでOKな場合がほとんどだけど、証券会社の口座の数字は、相手も同じ証券会社に口座を持っていない限り、振り込みできないでしょ」
「ああ、そういうこと」
「銀行の場合は、銀行同士でネットワークを作っていて、どの銀行の口座からどの銀行の口座へも、振り込みできるようになってるよね」
「うん」
「銀行全体で便利な決済システムを提供していて、それがインフラになってしまっているんだ」
「ふむふむ」
「結果として、銀行が作るお金、すなわち預金通貨は、現金と同じぐらい便利に使えるお金になっているってこと」
「なるほどね」
「まとめると、①預かったお金を混同管理するとお金を作ることができる ②作ったお金の振り込み決済システムを構築すると、現金に近いお金にできる ということになるかな」
「ふむ。私にもお金を作れるかな」
「工夫しだいでは作れるかもね」