「銀行が預金という仮想価値を作る時、2つの約束をしているという話は覚えてる?」
「あー、そんなこと言ってわね。なんだったかしら」
「1つは、預金を引き出したいと言われたら現金を渡しますという約束」
「ふむふむ」
「もう1つは、預金それ自体がお金として使えますという約束だ」
「そうだったわね」
「今回は、この2つ目の約束について良く考えてみよう」
「ふむ」
「預金がお金として使えるという約束を、守っているのは誰だと思う?」
「えっ、銀行が約束したんだから、守ってるのは銀行に決まってるでしょう」
「そう思うよね。それは半分正解で、半分は間違いだよ」
「どういうこと?」
「預金がお金として使えるという約束は、実は2つの約束に分解できる」
「えー!じゃあ結局、銀行は2つじゃなくて3つの約束をしてたってこと?」
「まぁ、そうとも言えるね」
「最初からそう言ってよ!で、どう分解できるの?」
「1つは、預金をお金として使う時、振り込みの処理をしますよという約束だ」
「んー……」
「要するに、決済の手続きは任せろ、相手の口座にちゃんと入れるぜ、ということ」
「ふむ、なるほど。それは銀行がやってるわけね」
「うん。預金の振り込みというのは数字を移動させるだけだから、実は銀行は大したことはしてないんだ」
「うーん……同じ銀行の口座に振り込みするなら単なる数字の移動かも知れないけど、別の銀行だったら現金が移動するんでしょ?」
「まぁ、そうだね。紙幣を運ぶわけじゃないけどね」
「そうなの?」
「うん。全ての銀行は日銀に口座を持っていて、銀行間のお金の移動はこの日銀の口座間で数字を移動して処理されるんだ」
「そうなんだ……。結局、別の銀行への振り込みであっても、数字の移動だけで処理されるってことなのね」
「そういうこと」
「で、もう1つの約束は?」
「もう1つの約束は、何かを買った時に、預金をお金として受け取ってもらえますよ、という約束だ。これを守っているのは誰かな?」
「えーっと……その何かを売った人、になるのかな」
「そうそう。この約束を守っているのは実は国民なんだ」
「あー……。現金の時と同じね。紙幣がお金として使えるという約束を守ってるのは国民だという話だったわね。」
「その通り。まとめると、預金は銀行が作った仮想価値で、約束をしているのは銀行だが、お金として受け入れるという約束を守っているのは国民、ということになる」
「ふーむ。どうして国民は、自分がしたわけでもない約束を守っているのかな。やっぱり法律で決まってるの?」
「いや、振り込みでの支払いは嫌だ、現金にしてくれと言うのは別に違法じゃないね」
「じゃあ、なんでかな?」
「普通の人にとっては現金も預金も同じようなものだからね。いつでも預金を引き出して現金にできるわけだから」
「それもそうね」