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政府が“本当に”借金を返すとどうなるか

はじめに

今回は、政府が借金を返すと何が起きるのかを考えてみましょう。

政府が借金を返す方法は、税金を徴収して返すか借り換えるかのどちらかです。*1

この他に、政府が政府紙幣や一兆円硬貨などを発行して返すことも可能ではありますが、政治的に実現は難しそうです。

借り換えについては、返済を先延ばしにしているのと同じことであり、借金を“本当に”返していることにはなりませんよね。

結局、政府が“本当に”借金を返すには、税金を徴収して返すしかないわけです。

今回の記事では、政府が税金を徴収して“本当に”借金を返すと何が起きるのかを、グリーンマネーのモデルで考えてみることにします。

国債を持っているのは公衆(企業や家計など)、銀行、日銀のいずれかですから、この3つに分けて考えましょう。

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公衆に対して“本当に”借金を返すと

公衆が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返済)すると何が起きるでしょうか。

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公衆が持っているグリーンマネーが徴税によって政府に移動し、それが再び公衆の手元に戻り、国債は公衆から政府に移動して消えます。

グリーンマネーは生まれたり消えたりしていませんから、マネーストックは増減しません。

そして、公衆が保有する金融資産としての国債が減ります。

あまりいいことは無いように見えますね。

国債は公衆の全員が保有しているのではありません*2から、国債を持っているお金持ちと持っていない庶民の2つに分けて考えてみましょう。

返済のための税金はお金持ちと庶民の双方が支払います。

そして、返済されたお金は国債保有していたお金持ちが受け取ります。

お金持ちが払った税金はそのまま戻ってきて行って来いですから、結局、まとまったお金を庶民から取り上げてお金持ちに渡していることになります。

これでは、誰が嬉しいのか分かりませんね。

お金持ちは金利を生む国債という資産を持っていたのに、金利を(ほとんど)生まないグリーンマネーに変わってしまうのですから。

お金を取られた庶民が消費を抑えることも目に見えています。

銀行に対して“本当に”借金を返すと

銀行が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返済)すると何が起きるでしょうか。

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公衆が持っているグリーンマネーが徴税によって政府に移動し、それが銀行の手元に戻って消えます。*3

グリーンマネーが消えるのですから、マネーストックが減少します。

そして、国債は銀行から政府に移動して消えます。

つまり、銀行が保有する金融資産としての国債が減ります。

これも、誰が嬉しいのか分かりませんね。

銀行は金利を生む資産を失って稼げなくなりますし、公衆はお金を取り上げられてマネーストックが減少し、経済は冷え込むでしょう。

何もいいことが無いですね。

日銀に対して“本当に”借金を返すと

日銀が持っている国債を、政府が税金を徴収して償還(返済)すると何が起きるでしょうか。

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公衆が持っているグリーンマネーが徴税によって政府に移動し、それが日銀の手元に戻って消えます。

この時、銀行の手元にあったブラウンマネーも政府を経由して日銀の手元に移動して消えます。*4

国債は日銀から政府に移動して消えます。

グリーンマネーとブラウンマネーが消えるのですから、マネーストックとマネタリーベースが減少します。

これもやはり、いいことが無いですね。

全く何もいいことが無いのか?

ここまでの話では、政府が“本当に”借金を返しても何もいいことが無いということになりました。

しかし、本当に全く何もいいことが無いのでしょうか?

いいことはもちろんあります。

それは、国民の金利負担が減ることです。

政府は借金の総額に対して金利を定期的に支払っていて、この金利は国民が税金で負担していますから、借金の額が減れば国民の金利負担も減ります。

政府が“本当に”借金を返して嬉しいことと言えば、国民の金利負担が減ることなのです。

たとえば今、政府の借金が総額1000兆円であり、国民の金利負担は毎年10兆円(年1%)だとしましょう。

この1000兆円を国民が税金で一度に支払い、借金を完済したとすれば、今後の金利負担はゼロになりますね。

10兆円を毎年支払うのと、1000兆円を一度だけ支払うのとでは、どちらが嬉しいでしょうか?

これは損得だけで言えば、どちらも同じです。

将来に渡る毎年10兆円ずつの支払いは、割引現在価値という考え方を使って合計すればちょうど1000兆円になるからです。

ただし、どちらでも同じなのは、1000兆円を一度に支払っても私たちの生活に何の支障も無ければの話です。

実際には、1000兆円を一度に支払うなんてことは無理な話であって、10兆円ずつ毎年支払う方がマシですよね。

金利負担を減らすもう一つの方法

政府の借金を“本当に”返すと金利負担を減らせるわけですが、実際には借金を返さなくても国民の金利負担を減らすことが可能です。

それは、公衆や銀行が持っている国債を日銀が買い取ることです。

実は、日銀が持っている国債に関しては国民の金利負担が無いのです。

なぜかと言うと、日銀が得た儲けは国(政府)に返すことになっているからです。*5

1000兆円分の国債を日銀が持っていて、それに対する金利10兆円を政府が日銀に払ったとすれば、その10兆円は政府に戻ってくるのです。*6

公衆や銀行が持っている国債を全て日銀が買い取ってしまえば、国民の金利負担はゼロになります。

黒田日銀による大規模金融緩和は、銀行が保有する国債を日銀が大量に買いましたから、この意味においては有効だったということです。

(本来の目的であるインフレ率2%はどこに行ったんでしょうね。。)

プライマリーバランスの黒字化について

政府が“本当に”借金を返すには、政府の(借金返済以外の)支出額よりも税収の方が多くなければなりませんよね。

これは、政府のプライマリーバランス*7を黒字化しなければならないということを意味します。

プライマリーバランスを黒字化するには、増税により税収を増やすか、政府支出を減らすかしなければなりません。

増税はもちろん、国民にとって“痛み”です。

また、政府支出を減らすということは、年金の受給額が減ったり医療費の自己負担が増えたりするということですから、国民は“痛み”を感じます。

増税にしろ政府支出の減にしろ、政府がプライマリーバランスを黒字化して“本当に”借金を返そうとすると、国民が“痛み”を感じるということです。

そして、国民が“痛み”を我慢して政府の借金を“本当に”返すということは、国民が毎年支払う金利を将来に渡って合計し、一括で支払うということになります。*8

そんなことをしなくても金利負担を減らす方法はあるのにです。

政府が借金を“本当に”返すことに意味があるのかどうか、良く考えてみる必要があるでしょう。

 

こちらもどうぞ。

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*1:政府が油田や金山を持っていて現金収入があればそれを借金の返済に充てることも出来ますが、基本的に政府というものはお金を稼ぎません。

*2:銀行保有国債については、公衆が間接的に保有しているのではなく、あくまでも銀行が保有していると考えます。国債金利で儲けるのは銀行であり、銀行の株主だからです。

*3:グリーンマネーは銀行が貸し出した時に生まれ、返済された時に消えます。

*4:ブラウンマネーは日銀が貸し出した時に生まれ、返済された時に消えます。

*5:国庫納付金と言います。

*6:実際には経費などが差し引かれますから全てが戻ってくるわけではありませんが。

*7:プライマリーバランスとは、政府の借金以外の収入=税収から、借金返済以外の支出を差し引いたもので、基礎的財政収支とも言います。

*8:例えば、金利負担のうち1000億円分を将来に渡って合計すると10兆円になりますから、プライマリーバランスで10兆円の黒字を出して返済に回せば、今後の毎年の金利負担を1000億円ずつ減らすことが出来ます。