前回の記事では、グリーンマネーとブラウンマネーについて説明しました。
私たちがお金として使っているのはグリーンマネー(預金通貨、現金通貨)であり、グリーンマネーの総額がマネーストックです。
ブラウンマネーはグリーンマネーを運ぶ荷台(パレット)にすぎず、私たちの財布に入っている現金通貨はブラウンマネーという荷台に載ったグリーンマネーだということでした。
今回は、前回の記事で無視した政府預金について考えましょう。
政府預金はグリーンマネーでしょうか、ブラウンマネーでしょうか。
地方自治体の預金
政府預金は政府が持っている預金のことですが、政府と言えば大きく分けて中央政府と地方政府(=地方自治体)の2つがあります。
ふつう「政府預金」と言う場合には中央政府が持つ預金のことを言いますが、まずは地方自治体が持っている預金について考えてみましょう。
たとえば、東京都という地方自治体は、みずほ銀行に預金口座を持っています。
大阪府はりそな銀行、京都府は京都銀行など、各自治体が口座を持つ銀行は決まっていて*1、中央政府のように日銀に口座を持っているわけではありません。
要するに、地方自治体も私たちと同様に、市中の銀行を使っているわけです。
そして、日銀のマネーストックの定義によれば、地方自治体も私たち個人や企業と同じ「通貨保有主体」です。
つまり、マネーに関する限り、地方自治体は私たちと変わるところがありません。
したがって、地方自治体が税金を徴収した時のマネーの動きは、私たちが誰かに預金を振り込んだ時と全く同じであり、以下の図のようになります。
地方自治体が支出をした場合には、これと逆方向にグリーンマネーが動きます。
結局のところ、地方自治体が持つ預金はグリーンマネーだということです。
そして、徴税は単なるグリーンマネーの移動*2であり、グリーンマネーやブラウンマネーが消えたり新たに生まれたりはしないことが分かると思います。
中央政府の預金
中央政府の場合は、中央銀行である日銀に預金口座を直接持っています。
したがって、徴税を地方自治体と同様にグリーンマネーの移動だと捉えれば、その動きは以下の図のようになるでしょう。
(中央政府が支出をした場合には、これと逆方向にグリーンマネーが動きます)
つまり、政府預金は私たちが持っている現金通貨と同様に、グリーンマネーとブラウンマネーが重なったものだと考えることが出来るわけです。
しかし、ここで注意すべき点があります。
と言うのは、政府預金はその定義上、マネーストック(MS)にもマネタリーベース(MB)にも含まれないということです。
そうすると、前回「グリーンマネーの総額がMS」「ブラウンマネーの総額がMB」と書いたことにズレが生じます。
これはどう考えれば良いでしょうか。
簡単なのは、「グリーンマネーの総額がMS(ただし政府預金は含まない)」のように、但し書きを付けることです。
もう一つの考え方は、「グリーンマネーの総額がMS」にこだわって、「中央政府が徴税するとマネーが消滅する(中央政府が支出すればマネーが生まれる)」というものです。
これはどちらで考えても別に間違いではないのですが、ここでは分かりやすい方、すなわち前者を採用することにしましょう。
当初の目的は、MSやMBを正しく捉えるための「分かりやすい」モデルをつくることですからね。
徴税でグリーンマネー(とブラウンマネー)が消えると考えた場合、以下のような疑問に対して誰もが納得できる分かりやすい回答を与えることは難しいでしょう。
- 徴税でグリーンマネーは消えたはずなのに政府預金の数字が増えることはどう考えたらよいのか?
- 地方政府の徴税ではグリーンマネーは単に移動するだけなのに、中央政府の場合だけ徴税でグリーンマネーが消えるとはどういうことか?
よって、ここでは以下のように考えることにします。
- 政府預金はグリーンマネーであり、かつブラウンマネーである。
- グリーンマネーの総額がMS。ただし政府預金は含まない。
- ブラウンマネーの総額がMB。ただし政府預金は含まない。
- 地方政府にしろ中央政府にしろ、徴税や政府支出はマネーの移動にすぎない。
ここまでで説明したモデルを受け入れれば、国債の発行や徴税、政府支出、国債の売買などでマネーがどう動くのか、MSやMBは増減するか否かなどが自然に理解できるようになります。
次回、図を使って説明します。